フェラーリF12ベルリネッタ

公開 : 2013.12.30 23:59  更新 : 2017.05.29 18:53

イントロダクション

“加速性能、フィオラノのラップ・タイム、あらゆる点で史上最速のロードゴーイング・フェラーリ”。 2012年のジュネーブ・モーターショー前夜、このアナウンスとともに発表されたフェラーリF12ベルリネッタを目にして、これはただ者ではないと感じたものだ。

そして、きっといまでもスーパーカー界の情報通たちはその言葉を神格化し、F12をあがめていたことだろう。例の963psを誇るハイブリッド・スーパーカーが登場しなければ……。

どちらが優れているかはともかく、フェラーリF12ベルリネッタには名車としての血統を感じるのだ。イタリアで試乗したときも、比較テストランボルギーニを目の前で退けたときも、確信は深まるばかりだった。われわれの2013年 ベスト・ドライバーズカーのタイトルにも後一歩のところだった。機は熟したのである。端整に彫りこまれたアルミニウム製ボディシェルの中に、いよいよ乗り込む時が来たのだ。

フェラーリは、フロント・エンジンのV12グランドツーリング・ロードカーを60年にわたり製造している。それなのに、新車F12には1964年発表の275GTBから影響を色濃く感じる。

275が道を開き、フロントにV12エンジンを積むフラッグシップ・モデルがマラネロから数々送り出された。その流れは、365GTB/4デイトナから550マラネロ、575M、599へと続く。デイトナと550の間の23年にもなる空白期間は、フロント・エンジンに見切りをつけ、テスタロッサのようなミッドシップ・フラット12へと試行錯誤した時期であった。

F12の全容と真価を解明したいのは、なにも掛け値なしの£25万(約4000万円)を払える人達だけではない。かくして、誰も明かしてくれない新しい跳ね馬の全貌を、われわれがお伝えすることになるのだ。

デザイン

先駆者としての部分と、先祖返りした部分という二面性をF12は抱えている。このクルマは、フェラーリのGTとしては初めてダウンサイジングされたモデルであり、先代より全長を短くし、車幅は狭く、車高は下がり、軽量化も行われた初めてのGTカーである。

F12のデザインは、まだ記憶に新しい550、575M、599にみられた迫力で圧倒する方向性ではなく、1960年代のフロント・エンジン・モデルに見られた女性的な印象という道を選んだ。

その代表と言える275GTBと比較すると、F12の全長は200mm長いのだ。しかし、切り詰められたオーバーハングによって、一見するとサイズは小さくなったように見える。キャビンが後ろ寄りのプロフィールというのが、そうしたクラシック・スポーツカーを思わせるシルエットの一因にもなっている。

599と比較すると、F12はダッシュボード周りや着座位置、さらにエンジンのマウント位置が低くされており、結果としてロールセンターを下げることができた。パッケージングの技術進歩により、リアにマウントされるギアボックスとサスペンション・ユニットは小型化され、これによりリアのオーバーハングが短くなり、前後の重量配分を後方寄りにすることができたのである。

スカリエッティ製のモノコックは、異なる12種類のアルミニウム原料から成る合金でできていて、599に比べてねじり剛性が20%高まり、全体として70kgの軽量化に貢献している。

F12がまとうアルミニウム・ボディシェルは、フェラーリ独自のエアロダイナミクス哲学で設計されている。これは、付加物により空力を得るのではなく、取り払うことで空力を形成するサブトラクション(引き算)の考え方として知られている。

ボンネットの上に切り込まれたアーチ状の溝は、エアロ・ブリッジへと続いている。これにより、フロントガラスの基部からボディの両側面へと空気は振り分けられ、ホイールアーチ周辺のドラッグ減少に利用される。

最終的にこのクルマは、時速200km/h走行時に123kgというダウンフォースを発生する。それにもかかわらず、ドラッグ係数は0.3未満だという。われわれが思うに、このクルマのスタイリングは国際的な評価を得るのは難しい。しかし、好き嫌いにかかわらず、F12のデザインワークを否定することはできないのである。

カーボン・セラミック・ブレーキと、磁性流体ダンパーは標準装備となる。6.3ℓダイレクト・インジェクションV12自然吸気エンジンは最高出力が740ps、最大トルクが70.4kg-mとなり、駆動力は7段DCTを経由して伝達される。

F12ベルリネッタのボンネットを開けた人は、見慣れないものを目にするはずだ。両バンクのシリンダーヘッドが、前方へ出っ張っているのだ。カムやバルブの制御とは関係ないものに見えるだろう。

これはレゾナンス・チャンバーというもので、吸入された空気がシリンダーに向かう途中で流れ込み、一時的に蓄えられる場所なのだ。フェラーリが言うには、この工程により燃焼効率が高まり、低速域から多大なトルクを供給できるというのだ。

この機能さえも6262cc V12エンジンの性能を示す一つに過ぎないのだ。このショート・ストローク・エンジンは直噴式の燃料供給と、燃焼行程の超精密制御により、圧縮比を13.5対1まで高めている。これは、アストン・マーティンの最新型ヴァンキッシュより23%も高い値であり、そのうえノッキングも発生しないという。また、このエンジンには環境性能も考慮されており、触媒コンバーターは不要だという。

このクルマの魅力である740psという出力は目を引く数字だが、市販されているクルマでさらに高出力なモデルを望むなら、F12の少なくとも3倍の負担をすれば手に入れることができる。しかし、F12の場合、70.4kg-mのトルクも同様に重要なのである。そのトルクの80%が、たかだか2500rpmから手に入るエンジンというのだから。

インテリア

F12は全体的なサイズを小さくしたにもかかわらず、キャビンを広くすることができた。フェラーリのこの主張は、初試乗のときに裏付けを得ることができた。まず第一に、革張りのスポーツ・シートに腰を下ろすと、深々と身を沈めているように思えるのだ。この薄いシートは、うわべだけの機能性しかないように見えるが、実際はサポート性に優れ、長距離移動にも完璧に対応できる。

次に、足が前方にすっかり伸ばせることに気づく。かかとの位置は、ほとんどヒップポイントと同じ高さとなる。たとえ上背のあるドライバーでも、天井張りに頭部が触れないので快適だろう。ドライビング・ポジションは素晴らしく、ステアリング・コラムにはほとんどの人に必要な調整幅が確保されている。

シートの後方には、コートやショッピング・バッグを置ける十分なスペースがあり、小物を入れるためのネットもある。さらに後方には、スーパーカーの基準としては大きなトランクがあり、積載量は合計500ℓにもなる。ラージ・ケースも二つまでならぴったり収まるのだ。

一方で、ステアリング周りのスイッチやレバーは、操作感が固い。458が公開された後でさえ、これには多少の慣れを要するし、誰もが扱いやすいわけではないだろう。われわれの場合、ウィンカーは合理的な操作感だと思えるが、どういうわけかワイパーとヘッド・ライトは依然として扱いづらい。

有難いことに、フェラーリはギアチェンジ・パドルをステアリングにではなく、コラムに取り付ける形式を続けている。このタイプの方が、ステアリングを切っていてもパドル操作が問題なく行えるのだ。

F12の様々なシステムは、扱いづらそうなセレクターを右手で操作するか、メーターパネルの右に位置する液晶ディスプレイを使うことになる。これらの操作ロジックはもう少し直感的なものだと好ましい。しかし、情報機器との連動性は優れている。ブルートゥース・フォンは、一度接続が確立されれば途切れることがない。

ナビゲーションは標準装備だが、操作が分かりづらい。しかし、以前のモデルに比べれば劇的に改善されている。地図情報は、メーター周りの右にあるスクリーンに表示され、その上、音声ガイダンスまで装備されている。そのプログラムは、最高のプレミアム・ブランドの水準としては、くどくどしていてまったく退屈である。フェラーリの説明によるとボイス・コントロールが備わっているそうだが、試したくてもわれわれには操作が複雑過ぎるのだった。

それ以外の標準装備には、盗難防止用の衛星監視追跡システム、リア・ビュー・カメラ、ステアリングの電動アジャスター、エアコン、クルーズ・コントロール、温度モニターが含まれる。

立て付けと仕上がりのレベルは向上している。しかしF12のキャビンには、もう少しフラッグシップらしい特色と高級感を出してもらいたい。それに、458のオーナーなら見逃さない数多くの共通部品が目に付いた。われわれテスターを不機嫌にすることはないが、£30万近くを費やすF12オーナーはもう少し望んでも良いだろう。

パフォーマンス

もし許されるのなら、パフォーマンス評価には満点の五つ星以上を上げたいところだ。ますます押し進められているモーター・アシストの利用とターボ化の魅力を考えれば、月まで届きそうな吹け上がりの6.3ℓ V12エンジンなどというのは、落日の自然吸気大排気量エンジンの典型と言えるからだ。

各国のメーカーを見渡しても、同じことをしているのは、ランボルギーニとアストン・マーティンのV12エンジンだけなのだ。そんな中にあっても、高回転域でのパワーと低回転での扱いやすさを兼ね備えたF12のエンジンは、別格なのである。最近の大排気量エンジンと比べても、めりはりがあり反応に優れている。

数字がすべてを語っている。出力は740psのピークを8250rpmで迎える。それに比べると適度なトルクは、最大値の70.4kg-mを大胆なことに6000rpmで発生している(アストン・マーティンV12ヴァンテージSが、6750rpmで出力のピークを迎えるのに比べて、たった750rpm “用心深い” だけなのだ)。

“フェラーリを一台買ったら、それはエンジンの代金であって、車体はただで付いてくる”。 こんな憎まれ口をよく耳にしたものだ。今はそうでもないように思えるが、このクルマのパワートレインがF12の魅力の中でもとりわけ際立っているのは疑いない。

タイムはどうか?  F12には効果的なローンチ・コントロール・システムが備わるし、重量配分はわずかにリア・ヘビーとなっている。これにより、97km/hまでを3.0秒で加速するスペックの数字に誤りはない。160km/hまでは6.5秒である。これだけ速いF12を含めても、最近テストしたクルマの中でこの項目におけるベンチマークと呼べるのは、依然としてブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツだけだと言える。

F12は、正しいギアを選択し加速すると、時速48km/hからたった2.3秒で113km/hに達する。そして、48km/h未満でも4速に入れることができ、たった4.6秒で193km/hという別世界に運んでくれる。トップ・スピードは340km/hという驚きの数字だ。

F12に乗っていれば、パワーに飢えることは決してないし、切れ味に優るトランスミッションを夢見ることもない。このクルマのデュアル・クラッチ・ユニットは、変速のスムーズさと速さにおいて、飛びぬけたレベルにあるからだ。

乗り心地とハンドリング

ステアリングは極端に軽く、驚くほど切れがいい。近年のフェラーリのこうしたハンドリング特性は、F12にも引き継がれている。このクルマの場合、燃料を満たすと車両重量は1715kgというかなり重いものになる。そのことからも分かるように、マラネロは身のこなしがもっと軽く感じられるよう努めたのだ。

ロック・トゥ・ロックはわずか2.0回転で、最小回転半径は控えめに抑えた。これによりF12には、フェラーリの名に恥じないハンドリングのDNAが埋め込まれた。このステアリングは、クルマの重量を見誤らせるほどの切れと軽いタッチを実現している。クルマのサイズをごまかすことはできないが、ターン・インでの身軽さは特筆すべきものがある。そこからスロットルを踏みF12を解き放てば、定常的な軽いアンダーステアに持ち込むことができる。

さらにこうしたアンダーステアは、右足を軽く踏み足すだけでやり過ごすことができるのだ。溢れるほどのパワーが間髪いれずに発揮されるので、ギアや車速にとらわれる必要はない。

ただし、スロットルもステアリングも瞬間的に大きな反応を示すので、安定感はまったく感じられない。そういうときは、ドライバーが落ち着いて対処しなければならない。ひるまずに、スロットルさばきで方向を変えれば、このクルマがバランスに優れ、ドライバーを裏切らないことが分かるだろう。

低速域でのF12はゆったりと走るクルマに姿を変える。磁性流体ダンパーにはソフト寄りとハード寄りのセッティングがあり、どちらも極端な設定ではないので、ドライバーは両方を使うことができるだろう。しかし、扱い易いエンジンと先進的なクラッチのミート技術をもってしても、ボディのたっぷりとした大きさだけは、(運転席からは先端が見えないけれど)少し扱いにくく感じる。

そうは言っても、あり余るパワーはいつ牙をむくとも知れないのだ。少し街を流したいだけなら、ステアリングのマネッティーノ・スイッチは、冒険せずにESPモードにしておくのが望ましい。こうした電子制御は分別あるペースで走っていても頻繁に入り込んでくる。ステアリングの切れとあいまって、V12ヴァンテージSと比較すると、F12から走りの落ち着いた部分を奪っているのが分かる。

同様のことが、スピードが偶然にも(そう、偶然にも)出過ぎたときに、高速域でも当てはまる。F12の走りというのは巧妙にコントロールされていて、驚いたことに、速度違反を起こさずに国中を走行できる水準にスピードを抑えてくれるのだ。これを実現するのが、クルマの注目度と制限速度という二つなのである。これぞF12の高機能の一つと言っておきたい。

サーキットでは、フェラーリのパワーを引き出しどこまでスピードを上げられるかは、ドライバーの度胸次第である。われわれには、F12にこれ以上の馬力が必要なサーキットは思いつかない。トラクションはストレートではすでに強力だが、コーナーリング・フォースと合わさると、F12の強烈なパワーでは必ずリア・タイヤが圧倒されてしまうのだ。

このクルマを運転して、フロント・エンジンのハンドリングの楽しさと精度の高さを一度でも味わったら、グリップを超えてスロットルを踏むのが習性になるだろう。しかしながら、これはF12のクイックであまりに敏感なステアリングをよそに発生するし、V12ヴァンテージSやポルシェ911GT3と同様に、ハンドリング性能といよりもパワーによって得られるものなのだ。

ランニング・コスト

このクルマはフェラーリであり、それもV12フェラーリであるから、その価値や購入金額、さらには維持費についての議論は不要と言えるほどだ。

それにもかかわらず、その数字が人を惹きつけ驚かせるものなので、皆さんの関心のおもむくままにお伝えしよう。F12のカタログ価格は、£24万(3,620万円)を少し下回るもので、ランボルギーニ・アヴェンタドールや他のエキゾチックカーよりも割安だ。しかし、事実上はなによりも高価な買い物である。それを大前提に話を進める。

こういったレベルの維持費となると、どのファクトリーにも、どのディーラーにも前例になるものは存在しない。塗装だけで£1万5千(約200万円)以上かかっている今回のテストカーには、予算総額£30万(5150万円)以内というバリアを抜けるのに、価格不相応だと感じる問題点はまったくなかった。

それでも購入を考えているなら、フェラーリ・ ジェニュイン・メンテナンスという7年間無料メンテナンス・プログラムは非常にいいと思うし、英国でも取り扱われている。しかし、F12の燃料代や税金は、当然対象外だ。現在の相場では、92ℓのタンクを無鉛ハイオクガソリンで満たすと、少なくとも£130(約2万円)が必要となる。そのうえ、われわれがなんとか記録した4.6km/ℓという燃料消費率で走っても、航続距離はたった418kmなのだ。

さらに、V12の壮大なパフォーマンスを楽しもうとすると、われわれがサーキットで記録した1.3km/ℓまでたやすく下がってしまう。道路税は年£490(約8万円)である。

選べるエンジンは一つ、選べるスペックも一つだが、オプションは無限にある。もしも、買取価値の下落を気にするタイプの人なら、オプションはわきまえて選ぶべきだろう。下落を気にしないタイプの人は、好きにしてもらって構わない。ブランド性と希少性は残存価格を支えるだろうが、購入価格が高いからといって条件がよくなることはない。だからオプションは賢く選ぼう。

結論

われわれは、テスト前に何度も自問した。後輪だけで駆動するこのクルマに、いったいどうして740psが必要なのだろうか。

スーパーカーだからといってフロントの心臓部に、こんな手厚い施しを与えるべきだろうか。実際にハンドルを握って結論を導くことができた。

フェラーリF12は、この馬力をすべて必要としているわけではない。もちろんだ。しかし、パワープラントのその凶暴性こそが、加速をせがむグランド・フロント・エンジン・スーパーカーの性格を、明確に決定づけているのは疑いない。

アストン・マーティン・ヴァンキッシュのように、このフェラーリより魅力的なスタイリングのライバルは存在する。しかし、その他の点ではどうだったろうか。一方で、ポルシェ911ターボSには人目を引く華やかさがない。F12に匹敵する存在感、価格、パワーを備えたランボルギーニ・アヴェンタドールLP700-4でさえ、イタリアン・スーパーカーの熱い走りを体現しているとは言い切れない。

そう、これこそスーパーカー。このクルマをGTカーと考えてはいけない。ここではその線引きが重要であることを理解して欲しい。なぜならF12には、極上のインテリアがあり、トランクもあり、滑稽なことに航続距離をかせぐ大きな燃料タンクもある。だがしかし、このフェラーリは依然として、根本的に、パフォーマンス第一で生み出されたスーパーカーなのだから。

そのパフォーマンスに秘められたドラマを、想像できるだろうか。

フェラーリF12ベルリネッタ

価格 239,736ポンド(2,940万円)
最高速度 340km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 6.7km/l
Co2排出量 350g/km
乾燥重量 1630kg
エンジン V12 6262cc
最高出力 730bhp/8500rpm
最大トルク 61.9kg-m/6000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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