【なぜ?】MT車が最近増えた理由 電動車増加で「ダイレクトな感覚」恋しく

公開 : 2021.02.12 05:45  更新 : 2021.10.22 10:13

トヨタはコストを考慮しての車種選定

トヨタの場合、カローラ・セダンとツーリングでは、売れ筋のCVT(無段変速AT)車に低コストの1.8Lノーマルエンジンを組み合わせる。

そしてスポーティな6速MTは、1.2Lターボエンジンとした。開発者は「1.2Lターボは低回転域の駆動力は少し細いが、実用回転域ではパワフルになる。そこで6速MTとターボを組み合わせた」と説明する。

トヨタGRヤリス
トヨタGRヤリス

C-HRは欧州指向の強いSUVで、プリウスから採用を開始した新しいプラットフォームに改善を加えた。なおかつ発売当初はザックス製のショックアブソーバーを使うなど、走行安定性のチューニングも巧みにおこなっている。走りに重点を置いた新感覚のSUVとあって、1.2Lターボエンジン搭載車に6速MTを用意した。

ヤリスも1.5Lノーマルエンジンの全グレードに6速MTを設定した。

以上のようにトヨタは、比較的コンパクトな走りに重点を置いた車種で、6速MTを増やしている。この理由として、6速MTのコスト低減もある。登録台数の多い車種であれば、6速MTも設定しやすい。

AT限定運転免許によりMT車が貴重に

6速MTが増えた背景には、複数の事情がある。

まずは近年になって、MT車の選択肢が減りすぎたことだ。運転免許統計によると、2019年に第一種普通運転免許を取得したドライバーのうち、67%がAT限定であった。近年はMTを運転できないドライバーが増えて、MT車の売れ行きも下がった。

マツダCX-5(海外仕様)
マツダCX-5(海外仕様)

この影響もあってか、MT車のバリエーションが激減してしまった。日本には国産車だけでも160車種前後が用意されているのに、MTを選べる車種は、一部のスポーツカーを除くとほとんどなくなった。

MT車の販売比率も5%以下だ。そうなると逆にMT車が貴重な存在になり、反動でニーズが高まり、ラインナップも増え始めた。

開発者からは「もともとは海外向けに開発したMTの完成度が高かったので、日本のユーザーにも提案する意味で設定した」という話も聞かれる。MTを設定する理由はさまざまだ。

販売店に尋ねると「MT車の売れ行きは少ないが、クルマ好きのお客さまには人気が根強い。コンパクトで手頃な価格のMT車を希望するお客さまもいる。MTがあるんだね、と関心を持たれることもある。最終的には奥さまの意見を聞いてATを選んでも、MTはイメージリーダーになり得る」とのこと。
 

電動車増加でMT恋しく

最近は冒頭で触れたとおり、モーター駆動を併用するハイブリッドなどのニーズが高い。

2020年に新車として販売された小型/普通乗用車については、約40%がモーター駆動システムを搭載している。これらのトランスミッションはいずれもATだ。

ホンダNワン無限
ホンダNワン無限

二酸化炭素の排出量や化石燃料の消費量を抑えるために、電動システムを使った車種が増えるのは当然の成り行きだ。しかし電動車が膨大に増えると、シンプルに運転できるMT車が、妙に魅力的に感じられることもある。

コンパクトSUVのロッキー&ライズの開発者は「今のところロッキー&ライズにMTの設定はないが、2019年の東京モーターショーに出展した時など、MTはないのかと頻繁に尋ねられた」という。

コンパクトなボディに、適度な動力性能を組み合わせたクルマをMTで運転する。現在の中高年齢層が若い頃は、これが当たり前だった。

ところが今は状況が変わり、クルマの機能が進化してモーター駆動も採用されたことで、ドライバーの操作と車両の動きに微妙なズレが生じてきた。この違和感が積み重なると、クルマをダイレクトに操作できるMTが恋しくなる。

MTにはスポーティなイメージも強いが、最近搭載車が増えているのは、前述のヤリス、C-HR、Nワンのようなコンパクトな車種だ。

運転するユーザーの思いは、クルマとの距離感を縮めて、安心して普通に走りたいというものだろう。MTは本来、身近な存在なのかも知れない。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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