【エンジンは850クーペ】フィアット600ムルティプラ リンゴットの屋上を走りたい 後編

公開 : 2021.07.25 17:45

ブルーの2トーンが美しいフィアット600ムルティプラ。850スポーツクーペ用のエンジンへコンバージョンされた1台を、英国編集部がご紹介します。

マニフォールドは自身で設計し削り出し

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
フィアット600ムルティプラに、850スポーツクーペ用のエンジンを積むことにしたヒューエット。「友人のトム・モンタグは、ラドボーン・レーシングに所属していた経験があり、相談するとエバンス社のウォーターレス・クーラントを勧められました」

「高性能で、真夏の暑い日、気温が40度近くあってもクーラーントは103度くらい。圧が上がらないので、ラジエターキャップを開けられるほどです」

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

ほかにも問題は山積みだった。「ヒーターマトリックスは、何度クリーニングしても機能しなかったんです。ホースを外すと、サーモスタットのハウジングが腐食していました」

「腐食しやすい安いアルミニウムの鋳造部品で、壊れやすい。ガストーチで温めたら溶けるほど。ヒーターを諦めて、ラジエターへまっすぐパイプを引き直すオーナーも多いんです。真鍮で部品を作り、サーモスタットを固定しました。完璧に動きますよ」

ヒューエットが制作した部品は、キャブレターにも組まれた。850スポーツクーペのエンジンにもともと載っていた、ウエーバーの30DICが原因だった。「DICキャブレターは使い物にならず、細かな調整が欠かせないとトムが話していました」

笑いながらヒューエットが説明する。「彼の勧めで、ランドローバー用のキャブレターを買いました。コンピューターで特注のマニフォールドを設計し、アルミのブロックから削り出しています」

どんな部品でも探し出すフィアット仲間

エアフィルターは社外品ではなく、オリジナルのエアボックスを青のパウダーコーティングで仕上げている。「見た目は当時のように古いまま。走りと同じくらい、見た目も重要です」

友人同士のつながりが、600ムルティプラのレストアで極めて役立った。その1人、フィアット愛好家のジョルジオ・カスティも、珍しい部品を調達するのに一役以上を買ってくれたという。

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

「エンジンリッドのヒンジは、ボディに溶接されていて単体では出てきません。しかしジョルジオは、どこからか新品のヒンジを見つけてきました。彼にお願いすれば、何でも手に入れられるようでした」

購入時に付いていた2列目のベンチシートは、2脚のセパレートシートに変更してある。部品は入手困難で、通常ならかなりの費用が必要になるはず。「ジョルジオが見つけたんです。ひどい状態でしたが、一式揃っていました」

「背もたれのアルミ部品は完全に駄目でした。派手に変形し、ペンキで塗られていました。それを本来の形へ戻すのに、1つ2時間はかかります。前部で12個、直しています」

ロックダウンの中で600ムルティプラのレストアを順調に進めていたヒューエットだったが、パンデミックの影響は身近なところにも及んだ。「ある日の電話に出ると、息子のラファエル。父のジョルジオが感染し、亡くなったという内容でした」

「彼は親切な人でした。息子にとっては、父のような存在。頼まれた部品をイタリアで探し、無料で提供するような人でした。人を助けることが好きだったのでしょう」

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