【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#10 愛を告白する青年のように!

公開 : 2025.05.30 12:05  更新 : 2025.06.02 14:16

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第10回は『愛を告白する青年のように』を語ります。

没落部分の修復が本格化

『ひ・・42』という、これ以上なく縁起のいいナンバーがついた大貴族号(愛車、マセラティクアトロポルテの愛称)は、タコちゃん(マイクロ・デポ岡本和久代表)によって没落部分の修復が本格化した。

主なメニューは以下の通りだ。
●ドロドロのバラバラになった運転席側ドアミラーのリモコン部修理
●ウンともスンとも言わないフューエルリッドリモコン部修理
●無軌道に動くワイパー修理
●オイル滲みのあるエンジンカムシール交換
●路面の微妙な凹凸で『タタタタタ!!』という音と振動を発する(?)前後サスペンションのラバー部品ほぼ総とっかえ
●エンジンマウント交換

カッコよすぎる(担当編集の感想です)マセラティ本社の近影。
カッコよすぎる(担当編集の感想です)マセラティ本社の近影。    マセラティ

うち、フロントのショックアブソーバーパッドのみ本国取り寄せ。「いつ届くかわかりません」(タコちゃん)という知らせに、目の前が暗くなったが、奇跡的に1ヵ月ほどで到着した。

かつてのマセラティ本社は、全員が朝からワインを飲みながら仕事してるような会社だったと聞いているが(編集部注:あくまで筆者のイメージです)、今はもうちゃんとした社会人集団らしい。迅速なご対応、ありがたくて涙が出ます。

500台納めて車両火災ゼロ!

こうして、フロントサスのラバー交換(ズタボロ状態)まで作業が進んだところで、大貴族号はリフト設備のある練馬のマイクロ・デポ本社に回送された。

オレ「じゃ、もう一度試乗していいですか?」

つくばにあるマイクロ・デポのメカトリエを出発する大貴族号。
つくばにあるマイクロ・デポのメカトリエを出発する大貴族号。    岡本和久

タコちゃん「いいですよ。明日、本社においでください!」

つくばのメカトリエと違って、マイクロ・デポの練馬本社はものすごく狭い。全長5メートルを超える大貴族号は、その中に身を縮めるように鎮座していた。『ひ・・42』のナンバーが、妖しげな純白のボディによく似合っている。

オレ「そう言えば、マセラティは燃えないんですか?」

タコちゃん「燃える、燃えないに関しては、たぶんフェラーリより優秀だと思いますよ。少なくともウチが納めたクルマに関しては、ないですね」

オレ「え、いままで何台くらい?」

タコちゃん「んー、500台くらいかな」

すげえ! 500台納めて車両火災ゼロ! なんて安心なんだ!

フェラーリの車両火災を経験したばかりオレにとっては(連載第9回参照)、燃える以外の故障なんてもう屁でもない。ただのエンコ(エンジン故障)なら、保険会社のレッカーサービスを呼べばいいだけ。ぜんぜん楽勝だぜ!

32歳若返った!

そのように豪語しつつ、大貴族号2度目の試乗に出発した私は、実はものすごくビビッっていた。

一番ビビッっていたのは、渋滞にはまってデュオセレクトのクラッチがすり減ることだ。85%も残ってるのに、渋滞にはまった瞬間に、クラッチが全部擦り切れてパーになるみたいな恐怖で頭がいっぱいなのだ。環八をフツーに走っているだけで、額や手のひらから脂汗が滲む。これは車両火災のPTSDだろうか?

2回目の試乗へGO! 出発前に筆者(清水草一/左)とタコちゃん(岡本和久代表/右)。
2回目の試乗へGO! 出発前に筆者(清水草一/左)とタコちゃん(岡本和久代表/右)。    岡本和久

それだけじゃない。たとえばETCがちゃんと作動するだろうかとか、走行中にタイヤが取れて飛んでっちゃわないかとか、スピードを上げたら大昔のアニメみたいにボディがバラバラに取れて運転席とハンドルだけにならないかとか、ありとあらゆる心配が襲い掛かってきた。

この感覚は、32年前、初めてフェラーリを買った直後そのもの! 俺はスッポン丸(愛車、フェラーリ328GTSの愛称)の炎上と大貴族号の購入で、32歳若返った! いい歳こいて、好きな女に愛を告白する青年のようにテンパっている! 緊張で顔が引きつっている! ああ、これぞ自動車ラスト・ロマン……。

ちなみに当日は、ワイパーの修理が間に合わずに取り外されていたが、それについてはまったく心配していなかった。だって、ついてないものは故障しないから! 動かないって安心。しみじみ。

(つづく/毎週金曜日昼頃公開予定)

記事に関わった人々

  • 執筆

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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