【ホンダの誤算?】なぜNSX、生産終了に追い込まれたのか 廃止早めたマーケティング

公開 : 2021.08.30 12:20  更新 : 2021.10.22 10:07

ホンダは「NSXは役目を終えた」と説明するもどこかモヤモヤ。生産終了に追い込まれた本当の理由を解説します。

あまりに短命 「NSXは役目を終えた」

執筆:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)
編集:Taro Ueno(上野太朗)

NSXが新たにタイプSを設定した。空力特性から動力性能まで、幅広く進化させた仕様だが、ベースのグレードは販売を終えている。

生産は2022年12月までおこなうが、受注の枠はすべて埋まった。

ホンダNSX
ホンダNSX    ホンダ

そしてこれから購入できるNSXは、新しいタイプSのみだ。実質的にタイプSがNSXのファイナルモデルになる。

なぜNSXは、今の時点で終了するのか。ホンダの担当者に尋ねると以下のように返答された。

「現行NSXの発売は2016年だから、既に5年を経過した。フルモデルチェンジの周期に達しており、NSXの役割は終わったと考えている」

このコメントには疑問がともなう。

大量に生産されるNボックスやフィットであれば、5~7年の周期でフルモデルチェンジするが、NSXのような価格の高い高性能スポーツカーは違う。

生産台数が少ないので、フルモデルチェンジの周期も長く、先代(初代)NSXは改良を受けながら15年にわたり生産された。

GT-Rも2007年の登場だから、約14年を経過する。

つまりNSXが2016年に発売されて2022年に生産を終了するのは、価格の高い高性能スポーツカーとしては短命だ。

現時点で廃止する背景には、ほかの理由もあるだろう。この点もあらためて担当者に尋ねた。

ホンダの説明 どこかモヤモヤが残る?

「NSXを6年程度しか生産しない背景には、生産体制の課題もある」

「北米のオハイオ工場を維持するうえで課題が生じた。また将来的に北米で実施される排出ガス規制も考慮して、生産を終えることになった」

ホンダNSX
ホンダNSX    ホンダ

この返答も、NSXが終了する理由としては不十分に思える。

そもそもNSXは、高性能スポーツカーながらもハイブリッドを搭載する。WLTCモード燃費は10.6km/Lだから、GT-Rの7.8km/Lなどに比べれば大幅に良い。

ほかの高性能スポーツカーに比べると、将来的な環境対応にも適しているのではないか。

仮に終了するなら、もっと直近の燃費規制や騒音規制があるかも知れない。

この点も担当者に尋ねると「将来の北米における排出ガス規制は関係しているが、直近の法規対応など、差し迫った理由はない」という。

そこで思い出したのがS660だ。

2022年3月まで生産するが、生産規模が小さいため、販売は2021年3月に終了した。

その理由としてホンダは、衝突被害軽減ブレーキの非装着(S660のタイプは低速用のみ)、タイヤを含む騒音規制への対応などを挙げたが、いずれも直近の課題ではない。

衝突被害軽減ブレーキは、新型の国産乗用車は2021年11月以降には装着せねばならないが、継続生産車は2025年12月になる。

そこでS660と同様の境遇にあるコペンについてダイハツの販売店に尋ねると、「コペンは衝突被害軽減ブレーキが非装着だが、今のところ従来どおり販売している。改良する予定はないが、生産を終える話も聞いていない」という。

最近のホンダは、ちょっとしたことで生産を終えるように思える。

オデッセイやレジェンドも「狭山工場を閉鎖する」という理由で生産終了を発表した。

商品の終了に伴って工場を閉めるなら理解できるが、狭山工場の場合は順番が逆だから筋が通らない。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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