令和の“経済車”狙いならハマる 新型アルト、マイルドハイブリッド車を検証

公開 : 2021.12.28 05:45

気になる点、気に入った点

経済性最優先のモデルを実感してしまうのがロードノイズ。

高い音域が目立つ騒音は透過感が強く、硬く薄っぺらな印象を受ける。

新型アルト・ハイブリッドXの後席内装。前後ともに、シート表皮はデニムを連想させる濃淡のある縦糸表現がこだわり。シートの横・背面はブラウンというコーディネート。
新型アルト・ハイブリッドXの後席内装。前後ともに、シート表皮はデニムを連想させる濃淡のある縦糸表現がこだわり。シートの横・背面はブラウンというコーディネート。    前田惠介

好意的に解釈するなら軽量高剛性ゆえとも言えるが、十二分な防振遮音対策が施せないのは経済車の辛さだろう。

逆に乗り心地は軽量の弱点をうまく抑え込んでいた。

サスストローク速度は程よく抑えられ、段差乗り越えで跳ね上げられるような感も少ない。

重質とは言わないが、穏やかさと収束の按配がよく、速度・路面による乗り心地の変化も少ない。

上手く制御されたサスストロークは操安面でも同様の効果を発揮する。とくに軽量小型になるほど厳しい高速操安での扱いやすさが興味深い。

ハンドリングについて

ハンドリングの傾向を一言でまとめればルーズ。ただし、曖昧ではない。

中立をしっかり押さえていても「何となく直進」。

従来型は、テールランプがバンパー部に配置されていて「商用車っぽい」という声があったという。新型は位置を変更し、丸みのあるデザインに。ホイールは全車14インチになった。
従来型は、テールランプがバンパー部に配置されていて「商用車っぽい」という声があったという。新型は位置を変更し、丸みのあるデザインに。ホイールは全車14インチになった。    前田惠介

修正舵も大凡でいいし、コーナリング中の加減速による方向性の変化も同様。

“往なし”とか“鈍し”とか“緩さ”の使い方が巧みだ。

コーナーが連続するようなコーナーや山岳路では扱いにくそうだが、直線や準直線的コーナーが続く高速道路ではいい感じの気楽さがある。

運転支援装備や動力性能の面から遠出に適したモデルではないが、高速が苦手というほどでもない。

気軽な日帰りドライブくらいなら対応できる走りである。

「買い」か?

経済性最優先と言っても試乗したハイブリッドXは約126万円。全方位モニター付きDA(ディスプレイオーディオ)装着仕様なら約137万円。

試乗車は半導体不足の煽りを食ってスッピン状態のハイブリッドXだったが、寧ろDA装着仕様のほうが値頃感がある。

開口部の地上高は30mm低く、開口部の高さは20mmアップし、丈のある荷物を積みやすくなったトランク。また、小柄なヒトでも手が届きやすいインサイドグリップを設定し、バックドア自体が閉めやすくなっている。こちらの外装色は、フェニックスレッドパール。
開口部の地上高は30mm低く、開口部の高さは20mmアップし、丈のある荷物を積みやすくなったトランク。また、小柄なヒトでも手が届きやすいインサイドグリップを設定し、バックドア自体が閉めやすくなっている。こちらの外装色は、フェニックスレッドパール。    前田惠介

ちなみにハイブリッドSとの価格差は約16万円。

ハイブリッドXのDA装着仕様なら約27万円の差。ハイブリッドSと同等装備で標準パワートレインのLなら100万円を切る。

ゲタ代わりだから割り切ってLを選べばコンセプトどおりの経済モデルになる。

ハイブリッドXは、LEDヘッドランプ、キーレスプッシュスタートシステム、オートエアコンなどを標準装着。

装備はコンパクトクラスの中間グレードと同等以上の贅沢仕様である。

それが分不相応に感じないのが新型の特徴の1つ。つまり、新型は“実用本位の簡素さのアルト”と“負担少ない気軽なパーソナルカーのアルト”の二面構成なのだ。

長距離用途まで考慮するユーザーには勧められないが、タウンユース主体で、時代を感じさせてくれる経済車を求めるならハイブリッドXはけっこうハマるモデルである。

残念なことに試乗車には装備されていなかったが、DA装着仕様を選択すればスマホと連携したインフォテインメントも楽しめる。

タウンカーに「私の部屋」要素を盛り込めるモデルなのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    前田惠介

    Keisuke Maeda

    1962年生まれ。はじめて買ったクルマは、ジムニーSJ30F。自動車メーカーのカタログを撮影する会社に5年間勤務。スタジオ撮影のノウハウを会得後独立。自動車関連の撮影のほか、現在、湘南で地元密着型の写真館を営業中。今の愛車はスズキ・ジムニー(JB23)
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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