時代の最高速モデル 1950年代 メルセデス・ベンツ300SL レーシングカー譲りの262.3km/h

公開 : 2022.04.17 07:06  更新 : 2022.08.08 07:12

クルマの性能を端的に表す指標の1つ、最高速度。過去100年間を振り返り、各年代の最速モデルをご紹介します。

モータースポーツでの活躍で地位を確立

一般に、モータースポーツがクルマを進化させるといわれてきた。ガルウィングドアのクーペ、メルセデス・ベンツ300SLは、直接的な影響を与えた格好の例だろう。

1950年代初頭のメルセデス・ベンツは、モータースポーツでの活躍こそが、自動車メーカーとしての地位を築くうえで重要だと考えていた。戦後のブランド復活のために。

メルセデス・ベンツ300SL クーペ(1954〜1957年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ300SL クーペ(1954〜1957年/欧州仕様)

それを受け、技術者のルドルフ・ウーレンハウト氏は、軽量で流線型ボディのレーシングカーを1951年に生み出す。エンジンは、300アデナウアー・サルーン用の2996cc直列6気筒。シングル・オーバーヘッド・カム(SOHC)の、質素なユニットだった。

コードネームにW194が振られたレーシングカーは、1952年にモータースポーツ・デビュー。ミッレ・ミリアやル・マン24時間レース、メキシコで開かれたカレラ・パナメリカーナへ参戦。それぞれのイベントで勝利を掴み、性能の高さを証明した。

パワーはそれほど高くなかったが、W194の強さを導いたのが空力的に優れたボディだった。メルセデス・ベンツというブランドを、その姿が強く印象付けた。

華々しく活躍したW194だったが、アメリカで代理店を営むマックス・ホフマン氏のアイデアがなければ、量産されなかったかもしれない。彼は裕福な自動車ファンのために、レーシングカーの市販をメルセデス・ベンツへ打診したのだ。

ホフマンは予約注文を集めていたものの、1000台という数はドイツ・ブランドにとって限定的ではあった。それでも、メルセデス・ベンツは300SL クーペの量産を決断した。

レーシングカーよりパワフルな240ps

当初のW194用エンジンに載っていたトリプル・ソレックス・キャブレターは、先進的なボッシュ社製の機械式インジェクションへ置換。量産版の300SLは、レーシングカーより最高出力が40%もパワーアップし、240psを獲得した。

発表は1954年のニューヨーク国際モータースポーツショー。当時では考えられない、時速163マイル(262.3km/h)という最高速度がうたわれた。ベースのレーシングカーより性能が高められた市販モデルは珍しい。

メルセデス・ベンツ300SL クーペ(1954〜1957年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ300SL クーペ(1954〜1957年/欧州仕様)

ウーレンハウト率いる開発チームによる、300SLの設計内容は挑戦的なものだった。スチール製のスペースフレーム・シャシーに、低く滑らかなスチール製ボディシェルを融合。ボンネットとトランクリッド、ドア、サイドシルには軽量なアルミが用いられた。

そのスペースフレームは、レーシングカーのW194からの派生。タイトなキャビンの幅も、フレーム幅が決めたもの。空力特性には優れていたものの、良くない乗降性という課題があった。その結果導かれたのが、ガルウィングドアだ。

もう1つの問題が、低いボンネットのラインを保ちながら、高さのある直列6気筒エンジンを維持するということ。解決策として、15Lのエンジンオイルでドライサンプ化され、ユニット自体も50度傾けてエンジンルームに納められた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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