フェラーリなら他社エンジンはありえない TVRサーブラウ & ジャガーXKR(1) 英国製V8の世界

公開 : 2025.07.19 17:45

古くから英国車でも採用されてきた、太いトルクに勇ましい響きのV8エンジン 設計の起源には日産やGMも ベントレーにモーガン、マクラーレンまで、UK編集部が個性的な10台の魅力を再確認

他社製エンジンのフェラーリなんてありえない

20世紀後半にTVRの経営者だったピーター・ウィーラー氏が、新モデルのサーブラウに自社製エンジンを搭載しようと考えた理由は、納得できるものといえた。ローバーが生産する、V8エンジンからの脱却でもあった。

「フェラーリやマセラティに、他社製エンジンが載っているなんて、ありえませんよね?」。1995年のAUTOCARの取材で、彼はこう答えている。

TVRサーブラウ 4.5と、ジャガー XKR 4.2-S
TVRサーブラウ 4.5と、ジャガー XKR 4.2-S    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

その時すでにTVRの拠点、グレートブリテン島西岸のブラックプールでは、V8エンジンが組み立てられていた。レーシングカー仕様のタスカンのために。改良は必要だとしても、新しいフラッグシップ・スポーツの動力源にすることは、充分に現実的といえた。

SOHCでも本質的にはレース用エンジン

そのアルミニウム製エンジンの型式名は、AJP8。開発者のアル・メリング氏とジョン・レイブンスクロフト氏、ピーター・ウィーラー氏の3名の頭文字と、気筒数を表していた。当初の排気量は4185ccで、フラットプレーンクランクが採用されていた。

技術的な特徴は多くなく、シングルオーバーヘッドカム(SOHC)で、バンク角は75度。1気筒当たりのバルブも2枚と平凡で、以前のローバー・ユニットと紙面上での大きな違いはなかったといえる。

TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様)
TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

しかし、本質的にはレース用エンジン。6500rpmでの最高出力は365ps、4500rpmでの最大トルクは44.1kg-mと、格違いの性能を秘めていた。実用性へ配慮された2+2のクーペへ積むには、少し不釣り合いなほど。

同時に、開発が不充分なまま量産は始まった。発売後、オーナーや専門とするショップによって、真価が引き出されたといっても良かった。

モデル名の由来はギリシャ神話の番犬

サーブラウというモデル名の由来は、ギリシャ神話へ登場する頭が3つある番犬。2シーター・ロードスターキミーラをベースに、ホイールベースを約280mm伸ばし、リアシートを追加する空間が作られていたが、アグレッシブなドライバーズカーだった。

発売から2年後に排気量は4475ccへ拡大され、426psと52.4kg-mへ増強。0-100km/h加速は3.9秒、0-241km/h加速は17.9秒が主張されたものの、AUTOCARが実施したテストでは、それぞれ4.3秒と21.1秒を記録している。

TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様)
TVRサーブラウ 4.5(1997〜2006年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

今回ご登場願ったサーブラウ 4.5は、TVRを専門に扱うガレージ、ジェームズ・アガー社が管理する車両。調子は万全で、ハイオクガソリンを注げば445ps近く出るという。走らせてみると、確かに記憶にあるサーブラウより速い。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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