アストン・マーティン・ヴァンキッシュ

公開 : 2014.08.07 23:50  更新 : 2017.05.29 18:20

■どんなクルマ?

新しいアストン・マーティン・ヴァンキッシュ。組み合わされる新設計のトランスミッション以外にも、語るべきことはたくさんある。数値やスペックが並べらた額面を眺めるよりも、実際に運転したほうがこのクルマの進化がよく分かるのだ。

他のメーカーが積極的にZF製8速ATを導入する中、なかなかアストン・マーティンは踏み切らなかった。というよりも、踏み切れなかった。なぜならトランスアクスル・レイアウトを採るヴァンキッシュはZF製のそれを組み込むことが難しいとされてきたからだ。しかし今回、ようやくそれらの問題をZFとアストンは共同で解決し、ヴァンキッシュ(他にはラピードS)にも組み合わされることになった。

したがって、最高速度も先代の294km/hから323km/hへと進化を遂げ、0-100km/h加速も0.3秒短縮された。0.3秒?たったそれだけなのか?とお思いになる読者もいらっしゃるかもしれないが、3秒台というエキゾチックな領域に踏み込めたと考えれば、立派な功績と言っても差し支えないだろう。

胸を張ってエコというには少しばかり罪悪感が残るが、燃費も先代の6.9km/ℓから7.8km/ℓへと10%改善された。CO2排出量が300g/km以下になったのもひとつの進歩だ。

税金の書き記された封筒を開けるのが苦にならなくなる程ではないけれど、それでも充分とはいえない78ℓのガソリン・タンクを補充する頻度はいくぶん少なくなるに違いない。

またサスペンションがフロントは15%、リアが35%強化され、リアのスタビライザーは太くなった。加えてトーイン角とキャンバー角もあらたにセッティングしなされたそうだ。

軽量化されたアロイ・ホイールには専用設計の新しいピレリPゼロが組み合わされ、足元だけでもトータルで7kgの軽量化を達成した。

■どんな感じ?

先代のモデルを史上した際、複雑な心境になった。なにもクルマが複雑だと言っているわけではないので悪しからず。

なぜそう思ったか。V12ヴァンテージSが完全なるスポーツカーだとすると、DB9はクラシカルなGTカーというのが一般的な見方だ。となったときに、ヴァンキッシュの立ち位置が途端にあやふやになってしまうのだ。求めているのは、どのフラッグシップ・モデルでも追従し得ない明確なスポーティネスなのだけれど。

しかし今回のモデルは、それらの問題をかなりクリアにしている。決してヴァンテージほどシャープではないのだが、トランスミッションの手早い仕事のおかげで俊敏になったように感じるのだ。ポルシェ911 GT3よりもパワー・ウエイト・レシオが優れていることも、乗ってすぐに感じ取ることができる。先代のトルコンATのような、もっさりとした印象は全くなく、アクセルをつけば、即座に加速が始まるのである。

そうであるものの、例えばランボルギーニアヴェンタドールフェラーリF12を脅かすかというと、そうではない。もちろん運転していてスリルはあるのだが、手に汗握るようなドライビングをお望みならば、イタリアの闘牛か暴れ馬、あるいはもっと実用的なポルシェ911ターボSあたりをおすすめする。

一方A地点からB地点までを、どれだけ速く移動できるかというよりも、どのような味わい深さを提供してくれるのかに興味があるのならば、ヴァンキッシュほどうってつけのクルマはないだろう。操舵はとても明確で、このモデルからはシャシー・バランスもクラス屈指の出来栄えとなっている。高貴な味わいがある唯一無二のクルマと言って良い。

乗り心地にも惜しみなく開発費が投入されているのだが、アジリティ向上の為のスタビライザーの強化などは百歩譲って受け入れられるとしても、少しばかり硬すぎやしないかと思ってしまうシチュエーションが多々あったのは残念だ。

スコットランドの高地特有の粗い路面を考慮しても、ライバルに比べると落ち着きに欠ける点は、改善の余地ありだ。

■「買い」か?

先代に比べてあらゆる点で進歩したことは認めるが、アストン・マーティンというネームを考えれば、やや最新技術に傾倒しすぎている印象は拭えない。

ギアボックスを入れ替えたことは、もちろん技術的には正常な進化だといえるのだけれど、そこに ’味わい’ が残っているかと言われれば、首を縦に振ることは難しいのだ。

ただしドライバーのエモーショナルな部分を刺激してくれる点は、先代と変わりはない。

あとは技術上の粗を改善してくれることを祈るばかりだ。

(アンドリュー・フランケル)

アストン・マーティン・ヴァンキッシュ

価格 £192,995(3,340万円)
最高速度 324km/h
0-100km/h加速 3.8秒
燃費 7.8km/ℓ
CO2排出量 298g/km
乾燥重量 1739kg
エンジン V型12気筒5935cc
最高出力 575ps/6650rpm
最大トルク 64.3kg-m/5500rpm
ギアボックス 8速オートマティック

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