魅了するツートーン・ボディ ブガッティ・タイプ57 アタランテ 公道用モデルの理想像 後編

公開 : 2023.02.19 07:06

戦前、フェラーリに匹敵する訴求力や神秘性を持っていたというブガッティ。妖艶なタイプ57 アタランテを、英国編集部がご紹介します。

レストアを終え国立自動車博物館で展示

1974年の時点で、ブガッティ・タイプ57 アタランテはオーバーホールが必要な状態にあった。作業を請け負ったのは、英国のアンティーク・オートモービルズ社。ルーフはオリジナルに近い状態へ戻され、ボディはブラックとレッドに塗られた。

当時のオーナー、モーリス・タイセレンク氏はフランス北部のドーヴィルブで開かれたガッティ100など、複数のクラシックカー・イベントへ参加。10年ほどオーナーとしてアタランテを嗜んだ。

ブガッティ・タイプ57 アタランテ(1936年/欧州仕様)
ブガッティ・タイプ57 アタランテ(1936年/欧州仕様)

1988年5月にオークションへ掛けられ、フランス・カンヌに住むカーコレクター、ベルナール・メリアン氏が落札。ブガッティの歴史を研究するピエール・イヴ・ロージェ氏の協力を得ながら、先述のような歴史が明らかになった。

リアアクスルには315の刻印があり、ロージェはシャシー番号との関連を調べることができたという。調査では、初代オーナーのオリベロへも連絡を取り、サンルーフの構造を確認できる写真も入手している。

直列8気筒エンジンは、フランスのMパリエ社がリビルド。シャシーとドライブトレイン、電気系統は、クロード・アフシェン社によってオーバーホールされた。作業は1992年に完了し、フランスの国立自動車博物館で展示された。

2001年、ドイツ・ニュルブルクリンクでのオークションに出品され、オランダの起業家、ビクター・ミュラー氏が落札。ペブルビーチやグッドウッド、ヴィラデステといった、名だたるコンクールデレガンスで美しいボディがお披露目されている。

否応なしに人々の注目を集める優雅なボディ

現在のオーナー、キース・ヤンセン氏が購入したのは2003年。オランダ中部のパレ・ヘット・ローで開かれたクラシックカー・イベントだった。

ヤンセンは、ブガッティ・タイプ57のようなモデル以外での参加が難しい、特別な自動車イベントを好むマニア。地元の専門ガレージで、従来から抱えていたエンジンの始動性に関する問題は直されている。点火系が原因だったようだ。

ブガッティ・タイプ57 アタランテ(1936年/欧州仕様)
ブガッティ・タイプ57 アタランテ(1936年/欧州仕様)

その整備時に、オリジナルとは異なるタイプ57SC用のエグゾーストも追加されている。仕上がりは極めて美しい。

筆者がパリの静かな夜道をアタランテで流すと、否応なしに人々の注目を集めてしまう。巨大なマーシャル社製のアエロラックス・ヘッドランプの光を感じなくても、サウンドが興味を呼ぶらしい。妖艶な後ろ姿にも見惚れているようだ。

ニッケルメッキされたフロントアクスルが、街路灯に照らされる。勇ましいエンジンとは対照的に、小さな部品までが宝石のようで、見る人の心を奪う。ブガッティならではの世界観といっていい。

視覚的には、エンジンオイルの焼けた匂いを想像できないほど優雅。キャブレターは、磨き込まれた吸気マニフォールドで隠されている。

ボディサイドには、ドアヒンジが繊細に露出する。巨大な荷室は、スペアタイヤが占拠する。運転席側ドアの後部に、小さな荷室が用意されている。工具専用の収納もある。アール・デコ調の装飾が施されたドアパネルには、地図用の大きなポケットが付く。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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