ディーゼルを置換する以上の能力 メルセデス・ベンツSクラス S 580e(最終) 長期テスト

公開 : 2023.03.12 09:45

ドイツの名門ブランドが提供する、最上級PHEVの完成度は? ラグジュアリー・サルーンの実力を長期テストで確かめます。

積算2万932km 3.0L直列6気筒エンジンは好燃費

正直なところ、プラグイン・ハイブリッドのメルセデス・ベンツS 580eへ、当初は懐疑的だった。自身のクルマとして乗るなら、ディーゼルターボを積んだS 350dを選んだだろう。ゼロ・エミッション・ゾーンが増え、軽油価格が高騰する2023年でも。

しかし、今回の長期テストの目的は、プラグイン・ハイブリッドがディーゼルターボを置き換えるSクラスのパワートレインになるのか確かめること。そのため、S 580eがやってきた。ロングボディで。

メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアム・プラス・エグゼクティブ(英国仕様)
メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアム・プラス・エグゼクティブ(英国仕様)

これまでの半年間、日常的に運転し走行距離は2万kmを超えた。グレートブリテン島を走り回り、欧州大陸に広がる高速道路網も意欲的に巡った。多くのSクラスと同様に。

初めて対面した時、世界最高峰の高級車だと理解はしていても、飛び跳ねるほど喜んだわけではない。筆者が1980年代にこの仕事を始める以前から、Sクラスは高級車としての地位を築いていた。既に試乗レポートで、新しいW223型の実力は示されていた。

今の筆者はフリーランスの寄稿者として働いており、長期テストのガソリン代は自分で支払うことになる。ランニングコストが大きな心配だった。

ところが、S 580eの3つのポイントを理解していなかった。まず、3.0L直列6気筒ガソリンターボ・エンジンは、かなり好燃費だという事実。駆動用バッテリーの残量が空になっても、快適さを保ったまま14.2km/Lほどで走ることが可能だった。

現実的に110km走れる駆動用バッテリー

2つ目は、移動中に想像以上の電気エネルギーを蓄えられること。かなり緩やかな下り坂でもエンジンは自動的に停止し、位置エネルギーを利用して発電が始まる。従来のクルマなら、エンジンブレーキで失われていただろう。

そして3つ目が、28.6kWhの駆動用バッテリーだけでの走行可能距離。メルセデス・ベンツの主張では最長約100kmなのだが、現実的には110kmは走れていた。メーカーが過小評価した数字をカタログに載せるとは。

メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアム・プラス・エグゼクティブ(英国仕様)
メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアム・プラス・エグゼクティブ(英国仕様)

つまり、充電されている限り、短距離ならガソリン代は発生しない。これまでフォルクスワーゲン・ゴルフを使っていた移動にも、S 580eは活躍してくれた。駅までの娘の送迎やスーパーへの買物、友人宅への訪問も、ガソリンを燃やすことなくこなせた。

往復で400kmもあるヒースロー空港へも、3分の1は電気エネルギーだけで走れた。結果として、車重2.3tもある500馬力超えのリムジンは、最も倹約に移動できる手元のクルマになった。

反面、大きな駆動用バッテリーが荷室を侵食し、実用性は限定的。大学生の娘の荷物を長期休みで持ち帰る場面では、ゴルフを利用することになった。まったく同じ条件ではないが、BMW 7シリーズなら問題なく積めたと記憶している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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