819psの素晴らしい処女作 ルーシッド・エアでニューヨークを走る 衝撃的な速さ 後編

公開 : 2023.06.03 09:46

北米の新興自動車メーカー、ルーシッドが提供を開始した上級サルーンのエア。ニューヨークのドライブで、英国編集部が実力を探りました。

普段使いのしやすさも開発目標の1つ

ニューヨークのブルックリン橋を、ルーシッド・エアで通過する。頭上まで広がったフロントガラスで、壮観な景色を楽しめる。日差しが強くなると、少し熱気を感じる。スライド式サンバイザーが備わるものの、社外の後付け部品のようで質感を乱していた。

ダウンタウンでは、歩行者のスマートフォンがエアへ次々に向けられる。アメリカのTVドラマ、「弁護士ビリー・マクブライド(ゴリアテ)」と「メディア王(サクセッション)」に登場したことで、知名度が一気に高まったという。

ルーシッド・エア・グランドツーリング(北米仕様)
ルーシッド・エア・グランドツーリング(北米仕様)

混雑した中心部でも運転しやすい。乗り心地はマイルド。ステアリングホイールやペダルの操作感には適度な重さがあり、反応は正確。着座位置は低いが、周囲の視認性にも優れている。

全幅も広いとはいえ、2mを60mmほど下回るから、車線内に留めやすい。ルーシッドによれば、普段使いのしやすさも開発目標の1つだったという。

発進直後から太いトルクの存在を感じるが、市街地では確かめにくい。それ以上に、ドライブトレインの洗練された平穏さに感心する。シートに身を委ね、豊かで穏やかな時間を堪能できる。

北部を目指す前に、半島の西側、ミートパッキング地区で撮影を行う。ドライバーの乗り降りに合わせて、自動的にエアはドアをロックしたり、システムをオンにしてくれる。ちゃんとロックされたか不安だったが、終わるまで盗まれることはなかった。

ブルックリン橋を再び渡る。対向車線にドナルド・トランプ前大統領の車列が見えた。彼を追うマスコミのヘリコプターが、上空を飛行している。

ハイパーカー並みに衝撃的なほど速い

ハイウェイを1時間ほど北に走り、ベアマウンテン州立公園へ。美しい景観に包まれた道で、エアの動力性能を確かめる。生産数が限定される、ハイパーカー並みに高速なバッテリーEV(BEV)であることは間違いない。衝撃的なほど速い。

高速道路の速度域に到達しても、加速度に衰えはない。トラクションにも不安はない。電動パワートレインの本気とはどんなものなのか、その最先端を如実に体感できる。とはいえ、過剰ではある。少しふざけていると、三半規管が狂って気持ち悪くなる。

ルーシッド・エア・グランドツーリング(北米仕様)
ルーシッド・エア・グランドツーリング(北米仕様)

500馬力でも充分だろう。加速時には人工ノイズが響くが、なくて構わないと思う。

そして驚愕なのが、これが最も穏やかなドライブモード、スムーズでの体験だったこと。スイフトとスプリントというモードを選ぶと、最高出力819psが解き放たれ、ステアリングとダンパーが引き締められる。

スプリント・モード時は特に、快適性が低くなり、エアのキャラクターが明確に変化する。現実的な条件でエアの能力を楽しむなら、スムーズ・モードで問題ない。

多くのBEVと同様に、高速走行時には軽くない車重が身のこなしへ制限を与える。カーブを旋回させると、大きく重たいクルマだと実感する。ステアリングは正確で、挙動が予想しやすいとはいえ。

本気を出して郊外の道を攻めても、得られる充足感はそこまで大きくない。少し控えめに、連続するコーナーを滑らかに処理すると楽しさを感じる。操舵感は、テスラモデル3の方が優れている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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