マセラティ・ギブリS Q4

公開 : 2013.12.26 20:21  更新 : 2017.05.29 19:12

では、ここから走行印象記に移る。
街中を流すレベルでは乗り心地はかなりいい。アシの緩衝機構として電制ダンパーが用いられ、その硬軟切り替えがセンターコンソール上にあるのだが、ノーマルではかなり柔和な乗り心地を示す。といっても、ばねに対してダンパー減衰力が弱すぎて無用に車体の揺れの収まりが悪くなることもない。検分したところ、セッティングの設えはクアトロポルテと同じで、弱めのコイルを使い、バンプストッパはかなり奥までストロークしないと利かないという、現代のクルマには珍しくなってしまったオーソドックスなもの。基本的にはストロークを強引に規制せずアシを動かす方向で、動きすぎるところをダンパーで寸止めする考えかただろう。それゆえ意外に下道に多い大きな段差に遭っても、ギブリは粗忽な突き上げを露呈することはあまりない。路面が19インチ(標準は18)のP-Zeroを叩くときに空洞打音風のポンポン振動が僅かに見られたくらいで、低速の乗り心地はサルーンとして使って不満がない。

エンジンもこの段階では品よく振る舞う。そこから生まれる振動は少なく、ただ低回転で負荷を上げると排気系起因と思しき微振動が僅かに床下から気取れるくらいだ。

とはいえこのV6ツインターボは138ps/ℓという性能志向で、レスポンスを最優先したダウンサイズ過給エンジンとは明らかに違う。ということは多少のターボラグはあっても仕方ないのだが、そこはZF8段が上手に救ってくれているようで、前が空いたのを見計らって強めの加減速を繰り返しても、鈍さや遅滞を見出すことはほとんどない。

そして、高速道路でペースを上げるとM156B型は、良い子ぶった最近のターボとは全く違う振る舞いを見せた。まずタコ目視6200rpmのレブリミットまで綺麗にフケる。過給仕事もトップエンドまできれいにフォローしてくれる。昨今は、レスポンスのために小径ターボを用い、過渡域で一気にブーストを高めて嚇しを効かすけれど、回していく途中でそれを使い切り、トップエンドでタレてフン詰まり感を覚えるエンジンは多い。だがM156B型はそういうものとは全く違う。きっちり踏んで、その出力の推移も回る感触も揃って気持ちのいいエンジンで、ことさら過給ユニットだと意識せずとも心地よく乗っていられるのだ。その際に窓を開ければ、後ろからターボとは思えぬほどの軽い響きの排気音が聴こえてくる。そこもまた気持ちいい。

こうしてペースを上げるとアシは明確に硬くなってくる。電制ダンパーは操舵速度やヨーレートよりもスピードに対してセンシティブに効かせる設定のようで、だから高速に入ってわざわざスイッチを押してハード側に入れる必要はない。ただし先述のように基本的にアシは動かす設定だから、超高速ではそうしたほうがよくなるのかもしれないが。
 そして高速を降りて峠道に踏み入ったとき、このアシの方向性においてマセラティ実験部隊が仕込んだその粋を堪能できた。

ギブリはドイツ勢のように最初からリヤを踏ん張らせることはない。つまりハナのターンインにリヤがきれいに反応して、ヨー運動は柔らかく始まる。この柔らかさに合わせてか油圧アシストのステアリングは保舵力を軽めに設定されている。ちなみに、このとき前輪へのトルク分配は立ち上がってるのだが、それによってステアフィールにノイズ的な手応えが混じることもない。躾の効いた操舵系である。そしてヨー起動に伴って動くアシは割とはっきりとロールを出す。だから操舵は繊細に行わねばらない。ドイツ勢のように強引な操作をギブリは許してくれないのだ。しかし繊細丁寧に事を運んでやれば、アシの動きを思いどおりに収斂させることは十分に可能で、幅2m近い巨体は峠の隘路でも持て余すことはなかった。ひとことで言って、通人向けのシャシーセッティング。マセラティ実験部隊らしい仕上がりである。

クアトロポルテ試乗記で、素養は評価できるが、煮詰め切れていないというような意味のことを書いた。だからギブリもそうだろうと思っていた。しかし予想は裏切られた。ギブリはしっかり煮詰まっていた。それもマセラティらしい通好みの味わいに。4WDも水面下で黒子的に仕事を果たし、その味付けを邪魔することはない。創設以来初めての4WDでこれはあまりにも見事である。BMWで言えば535iと550iのちょうど間の性能を持つ3代目ギブリ。ドイツ車からの浮気などという軽い気持ちでこれに手を出すべきではない。マセラティが仕込んだ通好みの味と正面から向き合おうとするひとだけが能力を正しく把握できるEセグメントである。

(文・沢村慎太郎 写真・佐藤正勝)

マセラティ・ギブリS Q4

価格 1010,0万円
最高速度 284km/h
0-100km/h加速 5.8秒
燃費 9.5km/ℓ
CO2排出量 246g/km
乾燥重量 2030kg
エンジン 60℃V6DOHCターボ,2979cc
最高出力 410ps/5500rpm
最大トルク 56.1kg-m/1650-5000rpm
ギアボックス 8速オートマティック

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