911 カレラ4 GTSの「偉大な源流」 顕著なオーバーステア 英国最古の356/2 新旧ポルシェ比較試乗(2)

公開 : 2024.03.16 09:46

現代の911へ通じる、いくつかの印象

乗り心地はしなやか。サイドウォールの厚いタイヤを履き、車重は700kg前後だから、そもそも硬くする必要はない。当時の技術者は、誰もハードなサスペンションが必要だとは考えていなかった。

シャシーは僅かに歪み、アシストレスのステアリングはスロー。荷重を移しつつ、356/2が旋回を始めるまでに、少しのタメがある。ホイールベースだけでなく、トレッドも狭く、挙動は僅かにナーバスだ。

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

それでも、4速のまま想像以上の加速を披露する。最高出力は40psでも、空気抵抗を示すCd値は0.30を切り、滑らかに空気の中を進むためだ。

1951年のル・マン24時間レースでは、46psへ改造された356 SLクーペが、161km/h以上に到達。751-1100ccクラスで優勝を掴んでいるが、それにも納得できる。

運転席からは、現代の911へ通じる印象がいくつかある。上下に薄いフロントガラス越しに見える、左右のフロントフェンダーの峰と、低いボンネットの景色がそうだ。

リアアクスルへの荷重のかかり方は異なるが、エンジンサウンドは後方から響いてくる。巡航速度では、殆ど聞こえなくなるということも同じ。しかし、356/2はこの上なく特別でもある。

見た目は、控えめかもしれない。途中に立ち寄った駐車場で、通りがかりの人が声をかけてきた。「ご自身で仕上げたんですか?」と。英国最古のポルシェですよ、とお答えすると、気持ちいいほど驚いてくれた。

遥かに深遠なところにある本当の価値

マニアからは、揺るがない羨望を集める。レースで優勝したクラシック・フェラーリではないが、推定価値は270万ポンド(約5億1030万円)。「超」の付く希少性と歴史的価値、オリジナル度の高さが、値段を吊り上げる。

「最も独創的な356の1台でしょうね」。DKエンジニアリング社のジェームス・コッティンガム氏が、笑みを浮かべながら話す。「過去のオーナーは、自身のコレクションの価値を高めるため所有していました」

ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)
ポルシェ356/2(1948〜1951年/欧州仕様)

これから決まる次のオーナーも、ポルシェ・コレクションの1台に加えるのだろう。この記事が公開される頃には、広大なガレージへ並んでいるかもしれない。

「すべての素晴らしいクルマと同様に、崇高な雰囲気を漂わせています。購入できる人は限られますが、コレクションを締めくくる重要な1台。ブックエンドと呼ばれるのは、そのためです」

現存する中ではオリジナル度が極めて高く、実用に耐える貴重な例といえる32番目の356/2。あまたあるスポーツカーの起源の中で、最も偉大な源流にある1台だ。見た目も走りも素晴らしいが、秘める本当の価値は、遥かに深遠なところにある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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