【同乗の小学生のみ死亡】 フェラーリ運転の医師を責めるだけ、では子どもの車外放出事故はなくならない!

公開 : 2024.08.20 06:25

大事なことなので強調します「乗車中の子どもは確実に守ってあげて」。2022年6月に広島で起きた「右直事故」は、フェラーリ医師に実刑判決は出ず、ワゴンR祖父も過失致死傷罪で書類送検された記憶に新しい事故でした。

フェラーリワゴンRの右直事故

AUTOCAR JAPANが2022年7月に報じたフェラーリ(F8トリブート)とワゴンR(初代スティングレー)の右直事故において、2024年6月、広島地裁福山支所で行われた裁判ではフェラーリを運転していた30代医師に対して、禁固3年執行猶予5年の判決を出した。

なお、これに先駆けて今年3月にはワゴンRを運転していた60代祖父も過失致死傷罪の疑いで書類送検していたが、情状酌量を考慮して不起訴になっている。

2022年6月18日に広島で起きたフェラーリとワゴンRの「右直事故」
2022年6月18日に広島で起きたフェラーリとワゴンRの「右直事故」    加藤博人

事故が起きたのは2022年6月18日午後8時半頃。場所は福山市内の交差点「まなびの丘ローズコム西」。現場は2キロ以上にわたってほぼ直線が続く片側3車線(信号のある交差点には右折車線あり)の広くて見通しの良い道路である。交通量も少なめでついついスピードが出てしまいそうな場所だ。

事故は直進するフェラーリと右折してくるワゴンRの衝突によって起きたいわゆる「右直事故」である。

フェラーリを運転していたのは30代の精神科医で衝突の際には時速100km以上のスピードを出していたことが確認されている。ワゴンRは60代男性が運転しており、後部座席でシートベルトを着用せず乗っていた小学生(9歳女児)が衝撃を受けて車外に投げ出され、全身を強く打って事故から2時間後に死亡が確認されている。

ワゴンRの60代男性と歩道を歩いていた男性も約4週間入院するほどの重傷を負ったがフェラーリを運転していた30代医師にけがはなかった。

この事故ではフェラーリが120km/hという一般道ではありえない速度で交差点に接近していたことで多大な非難を浴びた。フェラーリは交差点の38.5m手前でワゴンRの存在に気づいて急ブレーキをかけたが間に合わなかった。

側面衝突からの車外放出事故は40~50km/hでも発生する

ワゴンRも接近していたフェラーリには気づいていたはずだが、「右折できる」と思って無理に右折した可能性がある。

車高の低いクルマは実際の距離よりも遠い場所にいるように見える。それが120km/hという速度で向かってきているとは夢にも思わなかっただろう。

2022年6月18日に広島で起きたフェラーリとワゴンRの「右直事故」
2022年6月18日に広島で起きたフェラーリとワゴンRの「右直事故」

「まだまだ遠くに見えるから右に曲がれる」という判断をして右折しようとしたが、遠くにいると思っていたクルマはアッという間に近づき衝突を回避することができなかった。

120km/hといえば秒速33.33mである。たとえ100m先にいたとしても3秒もしないうちにこの場所に進んでくる。フェラーリ側も38.5m手前で気づいたがブレーキを踏むまでの時間(約0.75秒とされる)を考慮すると気づいて1秒もしないうちに衝突していたと考えられる。当然こちらも回避することはできなかった。

このような状況で起きてしまった事故であるが、ワゴンRの後部座席に乗っていた小学生女児だけが死亡という痛ましい結果となってしまった。なぜ死亡したのか?

メディアの報道や世間一般の非難は120km/hで運転していたフェラーリ医師に集中しているが、9歳女児だけが亡くなったのはベルトをせずに乗車していたことが原因だ。

側面衝突で車外に投げ出されるほどの衝撃は一般道の制限速度である40~50km/hでも発生する。フェラーリが現場道路の制限速度50km/hで走っていたとしてもベルトで拘束されていない体は簡単にクルマの外に投げ出されていただろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    加藤久美子

    Kumiko Kato

    「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難/詐欺/横領/交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。自動車メディア以外ではFRIDAY他週刊誌にも多数寄稿。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。クルマ英才教育を施してきた息子がおなかにいる時からの愛車で思い出が多すぎて手放せないのが悩み。
  • 撮影

    加藤ヒロト

    Hiroto Kato

    山口県下関市生まれ、横浜在住。慶應義塾大学環境情報学部に在学するかたわら、各自動車メディアにて「中国車研究家」として中国の自動車事情について「クルマ好き」の視点で多様な記事を執筆する。また、自費出版で中国モーターショーのレポート本「中国自動車ガイドブック」シリーズも手掛けている。愛車は1998年型トヨタ カレンと1985年型トヨタ カリーナED。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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