V12は幻の「XJ13」由来 ジャガーXJ-S 21年作られた大猫(1) 製造品質が乱した所有体験

公開 : 2025.02.09 17:45

熟成が進み味わいが増したデザイン

クインは、ジャガーを創業したウィリアム・ライオンズ氏の孫に当たる。同社のコンサルタント業務を担当した経歴を持ち、XJ-Sには特別な思い入れがあるという。

彼が振り返る。「ある週末に、ウィリアムさんが新しいジャガーでランチに来ました。発売の数か月前に。誇らしげでしたが、アメリカの規制でやむを得ず装備した大きなバンパーには、不満を漏らしていましたね。クロームのバンパーが付くはずだったと」

ジャガーXJ-S V12(1975〜1981年/英国仕様)
ジャガーXJ-S V12(1975〜1981年/英国仕様)    ジョン・ブラッドショー(John Bradshaw)

1975年9月のAUTOCARは、スタイリングの印象をこう伝えた。「XJ-Sのボディの美しさには、意見が分かれるでしょう。しかし、2人の小柄な人をリアシートへ乗せて安全に高速走行でき、衝撃や騒音から守る機能性には、疑う余地はありません」

それから年月を経て熟成が進み、デザインには味わいが増している。長いボンネットと骨太なバットレス、三日月のように湾曲したリアガラスは、鮮明な心象を生む。確かに、バンパーは少し不釣り合いだろう。

インテリアにはスポーティさが薄い。リムの細いステアリングホイールの奥に、2枚のメーター。その間に、ドラム状の補助メーターが並ぶ。警告灯は19個も用意されている。ウインカーレバーは、ブラック・ビニールから堅牢なレザーへ張り直してある。

トランスミッションは、3速AT。走りは活発で安定している。大きなボンネットが目前に広がり、加速時には緩やかに上を向く。路面の乱れを巧みになだめ、落ち着いた姿勢制御にある。

不具合や製造品質が乱した所有体験

ステアリングは、速度を高めても軽いまま。もう少し手応えが欲しいものの、ハイレシオでコミュニケーション力は高い。タイヤは15インチで、205/70のミシュランXWXを履く。路面が乾いていれば、グリップ力が頼もしい。

カーブへ突っ込むと、ボディは左右へ傾く。加減速時には前後へ。それでも、充分に抑制されている。高速域では風切り音が僅かに耳へ届くが、5.3L V12エンジンを引っ張ると、心地良いサウンドも響いてくる。

ジャガーXJ-S V12(1975〜1981年/英国仕様)
ジャガーXJ-S V12(1975〜1981年/英国仕様)    ジョン・ブラッドショー(John Bradshaw)

パワー感にも不満なし。当時のAUTOCARでは、0-100km/h加速6.9秒を計測している。ブレーキは強力で、漸進的に効く。

今でも魅力的な運転体験といえるが、当初の製造品質は優れなかった。8900ポンドの新車価格は競争力が高かったものの、電気系統の不具合や塗装のばらつきが、ジャガーの所有体験を乱した。

新車時にXJ-Sを扱ったディーラー、スタージェス・モーター・グループ社のクリス・スタージェス氏が振り返る。「ボディパネルのフィット感も、良くはありませんでした。エンジンは概ねトラブルフリーでしたが、インジェクションから燃料は漏れました」

丁寧に運転しても5.5km/L前後という、燃費も褒めにくかった。そんな事実が知れ渡る1970年代の終わりには、XJ-Sの販売は急落。ジャガーが属したブリティッシュ・レイランド・グループでストライキが頻発したことも、イメージの低下を促した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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