【第5回】森口将之の『もびり亭』にようこそ:ウーブンシティはインフラにこそ注目したい
公開 : 2025.02.12 17:05
モビリティジャーナリストの森口将之が、モビリティの今と未来を語るこのブログ。第5回は、モビリティの実験場として整備が進むウーブンシティです。乗り物だけでなく、インフラの新機軸も実践的に試せることは見逃せません。
新たな交通インフラを模索するウーブンシティ
先月米国ラスベガスで開催されたエレクトロニクスの展示会CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、トヨタが静岡県裾野市のToyota Woven City(以下ウーブンシティ)のフェーズ1竣工を発表したことは、すでにここで記事にしました。
そこでは構想発表から現在に至るまでの経緯とともに、ここがシティを名乗りつつ、私有地に開設されるモビリティのテストコースであることも伝えました。ここでは、それとは別の視点で、個人的に注目している点を書いていきます。

この連載の第1回でも書いたように、モビリティとはクルマや自転車、鉄道などの乗り物だけを指すのではなく、辞書で調べると『移動可能性』となっているとおり、どれだけ人間を移動しやすくするかという意味の言葉です。
移動をしやすくするためには、乗り物を改良していくだけでは不十分です。道路や駅などのインフラも同時にアップデートしていかなければなりません。その意味でウーブンシティには期待している部分があります。
2020年に構想が発表されたとき、ウーブンシティでは敷地内の道路を、次の3つに分類するとしていたからです。
1:スピードが速い車両専用の道として、自動運転シャトルの『e-Palette』など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
2:歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
3:歩行者専用の公園内歩道のような道
昨年5月にフランスのパリで開催された『VIVA TECHNOLOGY 2024』で、開発を担当するウーブン・バイ・トヨタの隈部肇CEOがスピーチをしたときも、これに近い内容を動画で紹介しているので、計画に変更はないと理解しています。
狭い歩道にさまざまな移動手段が集中する日本
翻って今の日本の道路を見ると、車道に対して歩道が狭いうえに、自転車は1970年代に一部の歩道を通行してもよいルールになったことから、道路のどこを走ってもよく、歩車分離式信号はいつでも渡れると認識している人もいるようです。
加えて2023年7月からは、電動キックボードに代表される特定小型原付が導入されました。二輪のほか、高齢者の移動を想定した三輪や四輪のタイプも登場していますが、すべて基本的に自転車と同じ通行ルールとなっています。

つまり自転車と同じ走り方をする乗り物が、種類も数も増える可能性があるわけです。今の状況のまま放置しておくのは危険だし、呼び名そのものも考え直すべきではないでしょうか。
こうした考えを抱いているのは僕だけではありません。たとえば電動キックボードシェアリングでおなじみのLuup(サービス名はLUUP)の代表取締役CEOを務める岡井大輝氏は、2年前に別のメディアで取材をさせていただいたときに、歩道と車道の間に位置する『中速帯』の設置を提案していました。
とはいえ道路は、公道と呼ばれていることでわかるように、国や都道府県、市町村などが管理している場所です。手を加えるには道路を使う人たちの同意を得る必要があるし、整備費用には税金が使われるので、安く抑えることも重要です。
フランスのパリは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、ソーシャルディスタンスの観点から歩行者用空間や自転車レーンを一気に拡充しました。それに比べると、日本は依然として歩道が狭く、多くの自転車レーンは車道の端にペイントで示しただけです。変えられない、決められない国であることを実感します。