【フォルクスワーゲンに何が起きたのか?】#1 きっかけはゴルフ8で感じた微振動!届いた本国からの招待

公開 : 2025.05.07 11:45

ここ最近、特に業界内のフォルクスワーゲンに対する評価が高まっています。正確には、評価が戻ってきた印象です。果たしてここ数年、フォルクスワーゲンに何が起きたのでしょうか? 本国のテストコースに招待を受け、その現状を見てきた大谷達也による全3回となる長文レポート、その第1弾です。

フォルクスワーゲン広報からのオファー

きっかけは、昨年2月にティグアンパサートのフォルクスワーゲン国際試乗会に参加したことにあった。

その仕上がりがよかったことを素直にリポートすると、しばらくしてフォルクスワーゲン広報から連絡があった。「どこがどうよかったのか、弊社エンジニアとディスカッションして欲しい」というのである。

歴代フォルクスワーゲン・ゴルフ。手前が最新となる第8世代。
歴代フォルクスワーゲン・ゴルフ。手前が最新となる第8世代。    フォルクスワーゲン

これには、ちょっとした背景があった。

私は確かにティグアンとパサートがいいとリポートしたが、それとともに『ゴルフ8で感じられたネガが解消されていた』とも記した。この、ゴルフ8からティグアン/パサートで改良された部分を詳しく説明させて欲しいというのが、フォルクスワーゲンがディスカッションを提案した理由のひとつだったのである。

日本とドイツを結んだリモート会議には日本の広報だけでなく、本社側の広報とエンジニア2名も参加。ここで私は、フォルクスワーゲンの快適な乗り心地とスタビリティの高さをこよなく愛してきたこと、そして悪い条件になればなるほどフォルクスワーゲンのシャシーは優位性が明らかになるなどといった見解を説明。

そのうえで、新型ティグアンとパサートではハンドリングに軽快感が付け加わると同時に、最近のフォルクスワーゲンで感じられた足まわりの微振動が解消されていたことを指摘した。

すると、リモートセッションに参加していたエンジニアのひとりが、「その微振動はどのモデルで感じたのか?」と質問してきた。そこで私は「いくつかのモデルで似た症状を経験したが、最初に気になったのはゴルフ8だった」と答えたのだが、このあたりからエンジニアの態度に微妙な変化が見られた。

微振動は『ホイールコントロール』と呼んでいる

彼はまず、私が感じた微振動を、フォルクスワーゲン社内では『ホイールコントロール』と呼んでいることを教えてくれた。そのうえで、これはタイヤ、ホイール、ブレーキ、そしてサスペンションの一部など、いわゆるバネ下が一種の共振を起こすことが原因で、昨今は低転がりタイヤが普及してきたことで対応が一層難しくなってきたと解説

さらに、現在もその対策に取り組んでいるところであると回答したうえで、「あなたに是非、私たちのプルービンググラウンド(テストコース)に来て欲しい」と、直々に招待してくれたのである。

筆者は8代目ゴルフの試乗記で、「足まわりに微振動が起きている」と指摘した。
筆者は8代目ゴルフの試乗記で、「足まわりに微振動が起きている」と指摘した。    フォルクスワーゲン

これは、私にとって実に意外な展開だった。

そもそも、私はゴルフ8に、「足まわりに微振動が起きている」とネガティブな意見を述べた。率直にいって、欧米のメーカーはこういった指摘をしても認めないことが多いのだが、彼らはその事実を率直に認めてくれた。これが第一の驚き。

それだけでなく、「バネ下の共振」が原因で「低転がりタイヤに起因する」と解説されたことにも驚きを隠せなかったが、中でも最大の驚きは「プルービンググラウンドへの招待」であった。繰り返しになるが、私は製品のネガを指摘したのに、このエンジニアは「施設への招待」という好意的な反応を示したのである。これを驚きと言わずに、なんと呼べばいいのか。

誤解のないように申し上げておけば、私が指摘したゴルフ8の微振動は、決して重篤なものではなかった。その証拠に、日本国内で発表されたゴルフ8の試乗記で、この微振動について触れられたものは、私が執筆したものを除けばほとんどなかったはず。

つまり、多くの自動車ジャーナリストがこれを感じなかったか、たとえ感じたとしても「敢えて指摘する必要がない」と判断するほど軽微なものだったのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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