【フォルクスワーゲンに何が起きたのか?】#3 一致するトップの交代時期!取り戻した品質主義と次の試練

公開 : 2025.05.09 11:45

ここ最近、特に業界内のフォルクスワーゲンに対する評価が高まっています。正確には、評価が戻ってきた印象です。果たしてここ数年、フォルクスワーゲンに何が起きたのでしょうか? 本国のテストコースに招待を受け、その現状を見てきた大谷達也による全3回となる長文レポート、その完結編です。

ヘルベルト・ディースの存在

ここから先は、フローリアン・ウンバッハの話だけでなく、私の推測も一部追加されていることをあらかじめお断りしておきたい。

1997年にフォルクスワーゲンに入社したフローリアンは、一貫してフォルクスワーゲン・ブランドのシャシー開発、ビークルダイナミクスと向き合ってきた。ただし、2007年から2016年まではブガッティに出向していて、フォルクスワーゲンの製品開発から離れていたという。ちなみに、現職に就いたのは2021年のことである。

I.D.のワールドプレミア時に登壇した、ヘルベルト・ディース。2022年で退任している。
I.D.のワールドプレミア時に登壇した、ヘルベルト・ディース。2022年で退任している。    フォルクスワーゲン

一方、ゴルフ8は2018年に発表された。つまり、ゴルフ8の開発で最も重要だった期間を、フローリアンはブガッティで過ごしていたのである。これが第一の悲劇だった。

もうひとつ、ゴルフ8の開発に影響を与えたと思えるのが、ヘルベルト・ディースの存在である。BMWの取締役会メンバーだったディースは2015年にフォルクスワーゲンに移籍。乗用車部門の取締役会議長に就任すると、2018年にはグループ全体のトップにまで登り詰めた。

彼はコスト管理に厳格で、乗用車部門の取締役議長に就任してからの2年間で同部門の利益率を2倍に引き上げたことが評価され、グループ全体を率いる立場に抜擢されたのだ。

一方で、フォルクスワーゲンの品質に翳りが見られた時期と、ディースがフォルクスワーゲン内で出世を果たしていった時期はピタリと一致する。「コスト削減を押し進めるあまり、製品のクォリティ低下を招いたのではないか?」。そう邪推されても仕方なかろう。

不運がいくつも重なった

もうひとつの不運は、こうした出来事と低転がりタイヤの普及がほぼ同時に起きたことにある。低転がりタイヤはタイヤ自身が持つダンピングが低いため、そうでなくとも微振動を発生しやすいようだ。

しかも、ゴルフはタイヤサイズやブレーキサイズが多岐にわたり、それに伴ってバネ下重量が大きく変化するモデル。バネ下重量が変わればバネ下の共振周波数も変化し、全ての条件でバネ下の共振を抑え込む作業はより困難になる。

不運がいくつも重なって、8代目ゴルフは微振動を残したまま出荷が始まったと推測される。
不運がいくつも重なって、8代目ゴルフは微振動を残したまま出荷が始まったと推測される。    フォルクスワーゲン

しかも、当時はディースが開発コストを厳しく監視していたほか、頼みの綱というべきフローリアンもブガッティに出向して不在だった。そうした不運がいくつも重なって、ゴルフ8は微振動を残したまま出荷が始まったと推測されるのである。

ここでフォルクスワーゲンの名誉のために付け加えておくと、ゴルフ8くらいの微振動を起こすクルマは、ほかにいくらでもある。品質が高いことで名高い『某プレミアムブランド』でさえも、ゴルフ8よりひどい微振動を起こすモデルはいくつもあった。

ただ、たまたま私の微振動に対する感度が比較的高く、そして私自身のフォルクスワーゲンに対する期待度が高いことから、普通であれば無視されても不思議ではないくらい軽微な振動が気になっただけのことなのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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