【フォルクスワーゲンに何が起きたのか?】#3 一致するトップの交代時期!取り戻した品質主義と次の試練

公開 : 2025.05.09 11:45

苦境から見事に立ち直った

しかし、この苦境からフォルクスワーゲンは見事に立ち直った。ティグアンパサートがその先駆けとなったことは前述のとおり。さらにいえば、先ごろマイナーチェンジを受けたゴルフ8.5も微振動を完全に封じ込めていたし、同様のことはドイツで試乗したI.D.Buzzでも体験した。フォルクスワーゲンは完全復活を遂げたといっていいだろう。

ちなみに、ディースは2022年に突如として退任。その理由については、コストダウンを強力に推し進めた結果、労働組合などとたびたび衝突したことにあったと報じられた。そして後任にはオリバー・ブルーメが指名された。もともとグループ内のポルシェで会長を務めていたブルーメは、ふたつの要職を兼任するという。

ディースの後任に指名されたのオリバー・ブルーメ。もともとポルシェで会長を務めており、兼任となる。
ディースの後任に指名されたのオリバー・ブルーメ。もともとポルシェで会長を務めており、兼任となる。    フォルクスワーゲン

ブルーメに対する評価をフローリアンに訊ねると「素晴らしい経営者。必要な部分にコストをかける価値を理解している人物だ」との答えが返ってきた。おそらく、フローリアンが進めたい方向での車両開発をブルーメは認めてくれるのだろう。最近デビューしたフォルクスワーゲン・ブランドのクォリティを見れば、フローリアンの評価が間違っていないことがわかるはずだ。

もちろん、フォルクスワーゲンの未来に暗雲がひとつもないわけではない。昨年末からたびたび取り沙汰されてきた工場閉鎖や従業員解雇などの報道を見ても、彼らが順風満帆とは言い切れないことが理解できる。

今後どのような道筋を進んでいくのか

もっとも、だからといって彼らの経営が苦境に陥っているわけではない。ちなみに、フォルクスワーゲン・グループの乗用車ブランド(フォルクスワーゲン、フォルクスワーゲン・コマーシャル、シュコダ、セアト、キュプラ)の利益率は2024年に5.0%を記録した。

これは2023年の5.3%を下回る水準だが、それでも、いわゆる大衆車メーカーとして5.0%の利益率は決して悪くない。それでもコスト削減を急いでいるのは、持ち株会社であるポルシェSEの意向だとされる。聞けば、同社はフォルクスワーゲンに対して6.5%の利益率を要求。これを実現するために、フォルクスワーゲンは経営の効率化に取り組んでいるのだという。

大切なことは、フォルクスワーゲンが品質主義という本来の姿に戻ったことにある。
大切なことは、フォルクスワーゲンが品質主義という本来の姿に戻ったことにある。    フォルクスワーゲン

しかし、フローリアンの話を聞く限り、ブルーメが無茶なコスト削減を強要することはなさそうだ。「いくらコストを下げても、品質が顧客の期待する水準に達していなければ、顧客は製品を買ってくれないでしょう。ブルーメはそのことをよく承知しているので、心配ありません」 フローリアンはそうとも語っていた。

では、今後のフォルクスワーゲンはどのような道筋を進んでいくことになるのか。

いま申し上げたとおり、たとえ経営の効率化が図られても、製品のクォリティを犠牲にすることはなさそう。では、どうやって支出を抑えるかといえば、当面はプロジェクト数を絞り込む公算が高い。しかも、ヨーロッパを始めとする国々ではEVのセールスが伸び悩んでいる。したがって、今後はEVの製品化をややスローダウンさせても不思議ではないような気がする。

これはあくまでも個人的な意見だが、彼らの電動化計画が多少遅れても私は意に介さない。それよりもはるかに大切なことは、フォルクスワーゲンが品質主義という本来の姿に戻ったことにある。私は、そう固く信じている。

(終わり)

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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