新型ホンダ・プレリュードの開発主査に雪上で詰め寄った話【不定期連載:大谷達也のどこにも書いていない話 #1】

公開 : 2025.10.21 11:45

エンジニアと自動車専門誌編集者という経歴で膨大な取材量を持つ大谷達也による、『どこにも書いていない話』を執筆する不定期連載です。第1回は新型ホンダ・プレリュードの開発主査に、雪のテストコースで詰め寄った話です。

キャラクターを表現し切れていない?

「このデザインだと、クルマのキャラクターを表現し切れていないんじゃないですか?」

新型ホンダプレリュードの開発主査(LPL)を務めるホンダの山上智行さんに、私はそういって詰め寄ったことがある。

2月に北海道で開催された、新型ホンダ・プレリュードの試乗会に参加。
2月に北海道で開催された、新型ホンダ・プレリュードの試乗会に参加。    本田技研工業

この時、ホンダは自動車ジャーナリストのごく一部を北海道の鷹栖プルービンググラウンドに招き、新型プレリュードのプロトタイプに試乗する機会を設けた。時期は今年の2月上旬のこと。言うまでもなく、コースは深い雪に覆われていた。

たとえプロトタイプであろうとも、新型プレリュードに試乗したのはこれが初めて。しかも、完成形に近いS+シフトを試したのも、この時が初めてだった。

S+シフトをひと言で説明すれば、ハイブリッドパワートレインに仮想のデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)を組み込んだかのようなホンダのリニアシフトを、シフトアップだけでなくシフトダウンにも適用範囲を拡大したものとなる。

リニアシフトに類似する制御は、他社からもリリースされている。そのせいか、これまでにも何度かリニアシフトに試乗したことはあっても、それほど強烈なインパクトを受けたという記憶がない。

クルマとの強烈な一体感

けれども、S+シフトはまるで違った。

鷹栖で乗ったプロトタイプは、その効果を最大限、理解できるように、システムのオン、オフが可能な仕様になっていたが、S+シフトをオンにした途端、雪に覆われた路面をタイヤが捉えている様子が『手に取る』ように伝わってきて、クルマとの強烈な一体感を味わうことができた。

『S+シフト』は仮想DCTのリニアシフトを、シフトダウンにも適用範囲を拡大した。
『S+シフト』は仮想DCTのリニアシフトを、シフトダウンにも適用範囲を拡大した。    神村聖

しかも、前輪の接地性がすさまじく良好で、わずかにステアリングを切った際の反応も、大舵角時のグリップ感も、「これが本当に雪の上?」とうなるほどしっかりとしていた。

おかげで、実際にはタイヤのグリップもエンジンのパワーもそのままなのに、S+シフトをオンにするとコーナリングスピードが10%、時には20%近くも上がった。それだけS+シフトが的確なステアリングインフォメーションと安心感を与えてくれたのである。

ドライバーを高揚させるシステム

それともうひとつ、アクティブ・サウンド・コントロール(ASC)の効果も絶大だった。

ホンダのASCはエンジンが発する基音(エンジン回転数と連動して変化するエンジン音の中で、一番低い周波数の音と理解して頂ければいい)の整数倍に相当する次数音(基音に乗する整数によって2次音、3次音、4次音……などがある)をオーディオスピーカーから再生することで、ドライバーの気持ちを高揚させることを狙ったシステムである。

プレリュードで採用されたアクティブ・サウンド・コントロール(ASC)の効果も絶大だ。
プレリュードで採用されたアクティブ・サウンド・コントロール(ASC)の効果も絶大だ。    本田技研工業

これもまた似たようなシステムは他社からもリリースされているが、ホンダのASCはリアリティが素晴らしく、とても合成音が流れているとは感じられない。そしてASCのサウンドがS+シフトに加わることによって、さらに官能的なドライブ体験を堪能できるようになるのだ。

それでも、S+シフトやASCはドライバーの高揚感を高めるための演出に過ぎない。ただし、プレリュード・プロトタイプは前述のとおり雪上でも驚くべきグリップを生み出してくれて、ドライビングの歓びを心の奥深くから掻き立ててくれる。ここでの『リアルな体験』がプレリュードの走りを下支えしてくれるからこそ、その上に乗るS+シフトやASCといった演出の効果が際立ってくるのだ。

しかも、S+シフトやASCはドライバーとクルマの一体感を向上するための『情報』としての効果が期待されるほど、リアリティとリニアリティには徹底的にこだわって作り込まれている。だからこそ、私はS+シフトをオンにした時、それまでを10〜20%も上回るペースで雪の鷹栖を疾走できたのである。

その時の体験があまりに痛快だったので、プレリュード・プロトタイプの走りは、もはやデートカーやスポーティクーペといったジャンルをはるかに越え、シリアスなスポーツカーとまったく変わらないほどヒリヒリとして刺激的なもののように感じられた。だから私は冒頭のように、山上LPLに食ってかかったのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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