久しぶりに自動車広告が面白かったという話 皮肉たっぷりな看板 英国記者の視点

公開 : 2025.06.04 19:45

ライバル企業をからかうような看板広告と言えば米国が有名ですが、英国でもウィットに富んだ「作品」を見ることができます。皮肉や自虐のこもった、シンプルで楽しい広告が大好きだというAUTOCAR英国記者のコラムです。

ライバルをからかう看板広告

お客にクルマを選んでもらい、そして大金を支払ってもらうためには、納得のいく理由を何度も説明しなければならない。そのようなプロセスは、必然的に自動車文化を部族的なものにし、対立を煽るようなことになってしまう。

単に自分と違う選択をした人を嘲笑したり、鼻であしらったりするのは幼稚なことだが、時折、わたし達はそうしてしまう。それは、啓蒙活動では永久に抑えきれない、人間の潜在意識の奥深くにある何かと結びついているからで、仕方のないことだ(科学者がそう言っているんだから、本当だ)。

ライバル会社の目の前で、挑戦的な広告を引き回すイネオス・グレナディア。
ライバル会社の目の前で、挑戦的な広告を引き回すイネオス・グレナディア。

優れた自動車広告も同様で、人の心に深く訴えかけてくる。その最たるものは、看板広告だ。看板広告は近年、高度化したデジタル技術と型破りなクリエイティビティ、そして看板を制作する代理店間の競争意識によって、重い役割を背負わされている。

今では、ANPR(自動ナンバープレート認識)カメラで撮影された画像を基に、通過するクルマにパーソナライズされたメッセージを表示するデジタル看板まで登場している。フォードマスタングの看板広告には、実際にタイヤの煙を再現する仕掛けが施されたものもあった。

インターネットで調べたところ、オーストリアの首都ウィーンには高級包丁ブランドのチロリット(Tyrolit)の看板があり、その表面が数週間から数か月にわたって徐々に酸化し、ナイフの輪郭が浮かび上がる仕組みになっていたそうだ(これは確かに巧妙なアイデアだったと認めざるを得ない)。

しかし、筆者はシンプルな、少し皮肉っぽい看板広告の方がずっと好きだ。特に、ライバルをからかったり、けしかけたりするようなものが面白い。ウィットに富み、自信に満ち、しばしば鋭いジョークや自虐ネタを含んでいる。

そうした看板は、想像力豊かな、優秀な人物の頭から生まれたもののように感じる。米国でよく見られるものだ。AUTOCARの本拠地である英国では、規制が厳しいためか、あまり見ることはできない。

しかし、その規制を振り払って、イネオス(化学大手イネオス・グループの自動車部門)が先日、ライバルのランドローバーをからかうような広告キャンペーンを展開した。イネオスはトレーラーに看板を取り付け、ウェストミッドランズにあるランドローバーの製造拠点と配送拠点の間を走り回ったのだ。

牽引しているのはイネオス・グレナディアで、看板には、不審なほどきれいなランドローバー・ディフェンダーと汚れたグレナディアが鼻先を突き合わせ、「外で決着をつけよう(Let’s take this outside)」と書かれていた。

筆者は思わず笑ってしまった。筆者はグレナディアのオーナーでもなければ、特にファンというわけでもない。さらに、この広告は、控えめに言っても根拠が薄い。

筆者は、ディフェンダーが森の小道や泥だらけのオフロードコースで、その力強い走行性能を見せつけ、グレナディアを完全に凌駕する姿をこの目で見たことがある。イネオスの広告には使えないようなシーンだ。

しかし、そんなことは問題ではない。片方は実際にオフロードを走る人が購入するものであり、もう片方はそうではないからだ。ランドローバーはこのことに誇りを持つべきだ。なぜなら、ディフェンダーが自らの限界を超え、はるかに大きな商業的成功を収めていることを意味するからである。

もちろん、こうした広告には批判を受けるリスクも伴う。成功の代償だ。ルノーも最近、似たようなことをしている。ブレントフォードのディーラーに新型ルノー5の看板広告を掲げ、「隣人を嫉妬させよう(Make your neighbours jealous)」と誘うキャンペーンを展開した。

このディーラーの隣にはミニのフランチャイズ店があるのだが、なんとその店の目の前に、ルーフにユニオンジャックを描いたルノー5を展示したのである。

こちらも面白くて、笑わせてもらった。広告は成功だ。ANPRカメラや特殊効果は必要なかった。

現代の自動車業界の企業文化が、時折、昔ながらの遊び心を忘れるほど堅苦しくならないことを願っている。

記事に関わった人々

  • マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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