欧州「ソーラー燃料」で低炭素化 EVとの共存図るスタートアップ
公開 : 2025.07.08 06:45
新興企業Synhelionは、太陽光とバイオマスで生産する「ソーラー燃料」により欧州の自動車の脱炭素化を目指しています。海外の豊富な再生可能エネルギーを活用し、エンジン車を “クリーン” にするとのこと。
海外の豊富な再生可能エネルギーを活用
ソーラー燃料のスタートアップ企業Synhelionの最高経営責任者(CEO)は、合成ガソリンは脱炭素化のための特効薬ではなく、今後数年間はEVを補完する役割を担うだろうと述べている。
同社は昨年、ドイツのユーリッヒに最初の工場を設立し、太陽光と廃棄物バイオマスを利用して「ほぼ」カーボンニュートラルなジェット燃料、軽油、ガソリンを生産している。

いずれも従来の化石燃料とほとんど変わらず、自動車や飛行機にそのまま使用することができる。
しかし、使用時に粒子状物質を排出するという問題は解決されない(化石燃料とは異なり、汚染物質は含まれていないため排出量は減少する)ほか、EVに直接電力を供給するよりも生産効率が低い。
SynhelionのCEO兼創設者であるフィリップ・ファーラー氏は、「英国やスイスで電力を生産する場合、その電力を主に(自動車の)電動化に使う方が理にかなっていると思います。この生産工程では効率が大幅に低下してしまいます」と認めている。
「両者の間に競争関係はほとんどないと考えています。現地で発電した電気は直接電動化に使うべきですが、使用できない分は燃料の生産に充て、貯蔵することができます」
ファーラー氏はまた、合成燃料は「欧州内外の適切な場所で生産し、輸送すべき」と述べ、欧州で発電した電気は主にEVに使うべきだと主張した。
同氏によると、欧州の小さな風力発電所や太陽光発電所で発電した電力は、年間1700台のEVに使うことができるという。これは、合成燃料を使用するエンジン車約450台分に相当する。
「つまり、燃料を生産するのは理にかなっていません。(電力は)直接利用すべきです。しかし、重要なのは、燃料を現地で生産する必要がないということです」
モロッコの太陽光発電所やチリの風力発電所を利用すれば、欧州本土には届かなかったはずの電力を活用して、自動車のクリーン化を図ることができるとファーラー氏は提案する。
さらに、そうした発電所の年間発電量は、欧州にある同等の発電所と比べて3倍に達するという。電力そのものは輸送できないが、液体のガソリンに置き換えることで輸送できる。つまり、EVを増やさなくても、欧州の何千台ものエンジン車にクリーンな燃料を供給することができる。
Synhelionは、航空会社のルフトハンザおよびフォルクスワーゲン・グループのスイスの輸入業者AMAGと提携し、自社の燃料を実験的に運用している。
AMAGは、ショートホイールベースのアウディ・クアトロにSynhelionの合成燃料を使用する実証試験を行った。
しかし、量産化への道のりはまだ長い、とファーラー氏は言う。「2030年から2035年頃には、さまざまなパスウェイが競争力のある規模になり、その後はかなり迅速に展開できるでしょう」
同氏は、コストの理由からスケールアップが最大の課題だと指摘し、化石燃料産業と同等の規模に達するには2050年までかかる可能性があると述べた。
コストの問題も大きく、Synhelionの合成燃料は現在、従来の化石燃料の「5~10倍」のコストがかかる。ファーラー氏は、「コストを完全に同等にするのは難しい」との見方を示している。
化石燃料に炭素排出税が課せられるなどして価格差が縮まれば、「現実的な解決策」となるだろう、とファーラー氏は述べている。







