ボンドガール好演で脚光 マーキュリー・クーガー XR-7(1) V8は最強仕様の428コブラジェット

公開 : 2025.08.09 17:45

ボンドガールが飛ばしたマーキュリー・クーガー XR-7 エンジンは最強仕様の428コブラジェットV8 本当だった映画へ登場した噂 「女王陛下の007」仕様へ復元された1台をUK編集部がご紹介

ボンドガールが飛ばしたクーガー XR-7

映画「007」シリーズに登場したアストン マーティンDB5は、自動車業界と映画業界を結ぶ新ビジネスを開拓した。共同プロデューサーだったハリー・サルツマン氏はフォードとも契約し、「007 ゴールドフィンガー」では初代マスタングを活躍させている。

マスタングは、1964年4月に発表されたばかり。銀幕に登場するホワイトのコンバーチブルは、欧州へ上陸した最初の1台だった。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)
マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

1964年の「女王陛下の007」にも、当然のようにアストン マーティンは登場するが、対峙するクルマをサルツマンは探していた。そこで白羽の矢が立ったのが、フォード・ブランドの1つ、マーキュリー。1969年式のクーガー XR-7 コンバーチブルだ。

劇中では、ポルトガル西部の海岸でジェームズ・ボンドがクーガーを追跡。それを運転していたトレイシー夫人を救い出す。その後、メルセデス・ベンツ220Sとのカーチェイスでクーガーは大暴れ。ボンドは夫人へプロポーズする、という展開が待っている。

最強仕様の428コブラジェットV8

マーキュリー・クーガーは、小柄なマスタングと大柄なサンダーバードの間を埋めるクーペ。「女王陛下の007」では、キャンディアップル・レッドに塗装されたXR-7 コンバーチブルが、3台用意された。

エンジンは、7014cc V型8気筒の最強仕様、428コブラジェット。この組み合わせは、合計127台しか提供されていない。美術部門の手でフランスの仮ナンバーが与えられ、トランクリッドにはスキーラックが取り付けられた。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)
マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

トレイシー夫人を演じた女優、ダイアナ・リグ氏は、ラリードライバーのエリック・グラヴィッツァ氏から運転スキルを習得。練習ではスピンを繰り返したものの、本番では見事に走りきったという。氷上ストックカーレースの場面も。

「クローズアップの運転シーンは、ほぼ実写です。氷上で80km/hで運転しつつ、素晴らしい演技を披露する彼女の精神力に、強い感銘を受けました」。撮影監督のマイケル・リード氏は、後に語っている。

当時は改造するのが当たり前

氷上ストックカーレースに登場した車両を含めて、「女王陛下の007」のクーガー3台が、すべて現存することに驚く。筆者が特に関心を抱くのは、英国のパインウッド・スタジオやポルトガルのシーンで用いられた、シャシー番号549292の1台だ。

撮影後、そのクーガーは売却。それから10年間の消息は不明だが、1980年代に入ると当時20歳だった投資家、ルー・バリッジ氏が購入している。「クーガーは、中古車店で買ったんです」。と彼は説明する。1000ポンドで。

マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)
マーキュリー・クーガー XR-7 コンバーチブル(1969~1970年/欧州仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

「珍しい、428コブラジェット・エンジンへ惹かれました。書類にパインウッド・スタジオの記載があり、007に使われたことは明らかでした。アベンジャーズにも出ていた、ダイアナさんが運転していた過去を知って、うれしかったですよ」

バリッジは、普段の移動手段としてクーガーに乗った。「リアにウルフレーシングのホイールを付けて、車高を上げました。当時は、改造するのが当たり前でしたよね。夜には、ストリートでドラッグレースにも熱中しました」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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