「主人公」のような高揚感 フォード・マスタング 289  中毒性あるV8の加速! 誕生60年をルート66で祝福(1)

公開 : 2024.05.18 17:45

ポニーカーという分野を創出し、初年度の最多販売記録を樹立した初代マスタング スピードボート的な中毒性あるスピード感 誕生60年を祝い、英編集部がルート66をロードトリップ

中毒性あるスピード感 スピードボートのよう

給油口のキャップを、さっきのガソリンスタンドへ忘れたらしい。カリフォルニア州西端の小さな町、ニードルズを目指す途中で写真映えしそうな場所を発見。カメラを出すため、トランクを開けようとしたら発覚した。パイプの先端がむき出しだった。

筆者がAUTOCARへ入社して数年。ちょっと特別なロードトリップの企画が通った。初年度の最多販売記録を打ち立てた、初代フォードマスタングの誕生60年を祝い、アメリカ・カリフォルニア州のルート66をドライブするという内容だ。

フォード・マスタング 289(1964〜1965年/北米仕様)
フォード・マスタング 289(1964〜1965年/北米仕様)

既に予定は丸1日分遅れていた。最近の悪天候で、迂回する場所が多い。しかし、小さなキャップを取りに戻らなければ。

同行してくれたフォトグラファー、マックス・エドレストンは、テールの見えないアングルで写真を撮る。Uターンし、数kmは続くストレートを飛ばす。

初代オーナーが3.3L直列6気筒ではなく、オプションだった4.7L V型8気筒の289エンジンを選んだ理由を、自分も確認する時だ。フロアシフトの3速ATは、1秒ほど考えてキックダウン。リアを沈めながらダッシュが始まる。

エンジンの回転数へ合わせ、カリスマティックな排気音も増大。空気力学ではなく、見た目重視でデザインされたフロントノーズは、80km/hを過ぎた辺りから僅かに持ち上がる。ステアリングも軽くなるが、不安なほどではない。

海上を飛ばすスピードボートのよう。実際より速く思えるスピード感には、中毒性がある。映画の主人公になったような、高揚感がある。これぞマスタング。

年間41万7000台の多売記録を作ったファルコン

ガソリンスタンドのスタッフは、見知らぬ英国人にもフレンドリーだった。残念なことにキャップは見当たらなかったが、数100m先のパーツショップを案内してくれた。

事情を話すと「問題ないよ」と答えて、店員がレジ裏のヤードへ入っていく。クロームメッキの小さなキャップは16ドル(約2400円)。フェラーリだったら、部品は在庫していなかったはず。

フォード・マスタング 289 「THE END OF THE WORLD(世界の果て)」のサインの前で
フォード・マスタング 289 「THE END OF THE WORLD(世界の果て)」のサインの前で

失った時間を取り戻すべく、スマホが示す近道へ。カリフォルニア州南西部に広がる、荒涼としたシープホール・バレーを北上する。偶然、「THE END OF THE WORLD(世界の果て)」のサインに出くわした。

ワンダー・バレーという地区に点在する芸術作品の1つだが、一帯の様子を正確に表現している。ルート66沿いにあるゴーストタウン、アンボーイまでの60kmまでの道で、他に唯一見つけた人工物は、地面から塩を掘る工場だけ。空虚感が凄い。

アンボーイは、1883年に西部開拓鉄道が伸延して以降、原野が広がる南カリフォルニアの中継地として機能した。1926年にルート66が開通すると、西を目指すロードトリップの要衝の1つになった。ミッドセンチュリーが黄金期だった。

裕福なアメリカ人たちは、充分な休暇を取得でき、旅をするお金があり、遠くを目指せるクルマを持っていた。1959年発売のフォード・ファルコンは、初年度に41万7000台という多売記録でシボレー・コルベアを圧倒。1960年代を、同社は華々しく迎えた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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