タタの重鎮、ジャガー・ランドローバー新CEOに就任へ 高級モデルの電動化をけん引

公開 : 2025.08.06 06:45

JLR(ジャガー・ランドローバー)のエイドリアン・マーデルCEOが退任を発表しました。後任として親会社タタで複数の事業に携わるPB・バラジ氏が選ばれ、11月より同職に就きます。今後のブランド戦略に注目です。

変革期の英国企業 トップ交代

JLR(ジャガーランドローバー)のCEOであるエイドリアン・マーデル氏が、2025年末をもって退任することが明らかになった。後任として、親会社であるタタ・モーターズのCFOであるPB・バラジ氏が、11月から新CEOに就任する。

JLRは、バラジ氏は「自動車および消費財業界で32年の経験を持ち、財務とサプライチェーンの分野で高い評価を受けているグローバルリーダー」だと説明している。ムンバイ、ロンドン、シンガポール、スイスにおけるタタの事業で経験を積んでおり、「変革に深く関わってきた」人物だという。

11月よりJLRの新CEOに就任するPB・バラジ氏
11月よりJLRの新CEOに就任するPB・バラジ氏

バラジ氏は既にJLRの取締役を務めているほか、タタ・モーターズ・パッセンジャー・ビークルズ、タタ・パッセンジャー・エレクトリック・モビリティ、タタ・モーターズ・ファイナンス・グループ、そしてJLR向けのバッテリー工場を英国に建設中のアグラタス社にも在籍している。

タタの会長であるナタラジャン・チャンドラセカラン氏は次のように述べた。「エイドリアンがJLRの劇的な再建と記録的な成果を残してくれたことに感謝します」

「JLRの次期CEOにバラジを任命できることを大変嬉しく思います。JLRを率いる適切な候補者の選定は、過去数か月間、取締役会によって行われ、慎重な検討の結果、バラジを任命することが決定されました」

「彼は過去数年間、同社と関わり、同社とその戦略に精通しており、JLRの経営陣と協力してきました」

「この人事により、JLRの再構築に向けた取り組みをさらに加速させていくことができると確信しています」

バラジは次のように述べた。「この素晴らしい会社を率いることは、わたしにとって大きな栄誉です。過去8年間、わたしはこの会社とブランドを知り、愛するようになりました。チームと共に、さらに高い目標を目指して取り組んでいくことを楽しみにしています」

「エイドリアンの多大な貢献に感謝するとともに、今後の活躍を祈念しています」

業績回復も課題は山積

マーデル氏は、前任のティエリー・ボロレ氏の突然の退任を受けて2023年にCEOに任命され、変革期にあるジャガーとランドローバーの両ブランドを率いてきた。パンデミック後の深刻な赤字と巨額の債務から脱却し、過去10年で最高利益を達成するなど、JLRの財務再建に尽力した。

業績の改善は、利益率の高いディフェンダーおよびレンジローバーシリーズの人気に支えられており、2026年までに利益率10%の達成を目指している。

JLRのCEO退任が決まったエイドリアン・マーデル氏
JLRのCEO退任が決まったエイドリアン・マーデル氏

マーデル氏はまた、新戦略『ハウス・オブ・ブランズ』の策定にも関わった。この戦略では、ディフェンダー、ディスカバリー、レンジローバー、ジャガーをそれぞれ独立したブランドとして切り離し、個別にマーケティングを展開する。

在任期間中の最大の変化は、ジャガーブランドの根本的な改革を告げる『ジャガー・タイプ00』コンセプトの発表だったと言えるだろう。このコンセプトは、BMWメルセデス・ベンツと競合する現在の立ち位置から、ベントレーと競う高級・高性能EVメーカーへの転換を象徴するものだった。

その第1弾となる4ドアGTは現在、最終テスト段階に入っており、年末には量産バージョンの発表、2026年夏に発売を控えている。それまでは、ジャガーのモデルは生産されない。

マーデル氏はAUTOCARの最近のインタビューで、この新型GTを試乗した感想として「JLRのトップとしてこれまでで最も楽しかった」と興奮を伝えた。

「そのスピード、加速力、パフォーマンスは驚くべきものでしたが、そのパワーを個性豊かに表現している点も素晴らしい。シャシー開発チームは、このクルマの可能性に大きな期待を寄せています」と同氏は述べた。

高級EVブランドとしてのジャガーの将来についてマーデル氏は、「最初の製品で目標とする販売台数に対して、かなりのウェイティングリストができることは間違いないでしょう」と述べた。

さらに、「現在の市場環境を考えると、この新しい世界における新しいジャガーの成功について、懸念する要素はまったく見当たりません」とした。

マーデル氏の指揮下で、JLRは同氏の就任当時に比べてはるかに安定した基盤を築いたが、依然として強い逆風に直面していることに違いはない。

最大の不安材料は、収益性の高いモデルの売上の大部分を占める、米国市場における外国製自動車に対する新たな関税の導入だ。

英国は最近、米国への自動車輸出関税を当初の25%から10%に引き下げる貿易協定を締結した。これは、国内で生産されるレンジローバー、レンジローバー・イヴォーク、ディスカバリー・スポーツにとっては朗報だ。

しかし、この関税は年間10万台までという上限が定められているため、それを超えるモデルは25%の関税の対象となる。

同様に、EU(欧州連合)は米国と協定を締結しているが、EU域内から北米に輸出される自動車には引き続き15%の関税が課せられるため、スロバキアで生産されているディフェンダーとディスカバリーに大きな影響が出るだろう。

後任のバラジ氏は、こうした関税や世界的な高級EV需要の低迷を背景に、避けられないラインナップの電動化について折り合いをつけなければならない。

最近になって、当初2025年末までに発売予定だった新型レンジローバー・エレクトリックは、需要回復を待つため来年へ延期された。JLRは発売日について明示しておらず、EVのジャガーモデルが予定通り発売されるかどうかについても言及していない。

記事に関わった人々

  • フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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