運転の喜びで満ちるMG オールドNo.1とスーパースポーツ・サロネット(2) 危うく鉄くずに

公開 : 2025.08.23 17:50

現存最古の量産MG「スーパースポーツ」 長く尖ったボートテールが特徴のスーパースポーツ・サロネット 名門の方向性を決定付けた、モーリス・ガレージズの2台をUK編集部がご紹介

1世紀前のクルマへ想像するより活発

14/28スーパースポーツ・ブルノーズ・サロネットのダッシュボードは、上質なウッド仕上げ。バーガンディに染められたファブリックとレザーの内装が、高級感を漂わせる。後席側も広々としており、シートの座面は短いが、大人でも快適だ。

1.8L 4気筒エンジンはすぐに目覚め、少し重めのノイズとともにアイドリングを始める。1速が横に出たドッグレッグ・パターンのシフトレバーを操り、アクセルペダルを踏み込めば、1世紀前のクルマへ想像するより活発に走り出す。

MG 14/28スーパースポーツ・ブルノーズ・サロネット(1925〜1926年/英国仕様)
MG 14/28スーパースポーツ・ブルノーズ・サロネット(1925〜1926年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

印象的なのが、サスペンションとステアリング。現在では驚くほどではないものの、コーナリングは軽快で、安定・正確にラインを辿っていく。ブレーキは、正直なところ効きが強くない。この時代のモデルとして、例外的ではないけれど。

だがこれに先んじて、モーリス・ガレージズを率いたセシル・キンバー氏は、モータースポーツでの成功がブランドの鍵を握っていると理解していた。スーパースポーツ・ブルノーズを超える、能力が必要だった。

ランズエンド・トライアルでクラス優勝

そこで目をつけたのが、モーリス・モーターズの工場へ放置されていた1548ccの試作ユニット。カムシャフトがブロックの低い位置に組まれ、プッシュロッドとロッカーアームを介する、オーバーヘッドバルブのシングルキャブ・エンジンだ。

キンバーは、これを14/28スーパースポーツのシャシーへ載せたワンオフモデルを作り、1925年4月のレースイベント、ランズエンド・トライアル出場を計画した。トランスミッションは、新設計で堅牢なモーリス社製の3速が選ばれた。

手前からMG「オールド・ナンバーワン」と、MG 14/28スーパースポーツ・ブルノーズ・サロネット
手前からMG「オールド・ナンバーワン」と、MG 14/28スーパースポーツ・ブルノーズ・サロネット    マックス・エドレストン(Max Edleston)

コーチビルダーのカーボディーズ社は、軽量ボディを製作。シャシーは後方が改造され、専用リーフスプリングが組まれたが、前側はそのまま生かされた。ワイヤーホイールを固定するスタッドは3本。ブレーキは、標準のままのドラムだった。

「オールド・ナンバー・ワン」への改造費用は、279ポンドだったとか。しかし、ランズエンド・トライアルでクラス優勝を果たすと、ガレージズ側の認知度は急上昇。その何倍もの効果を得たようだ。

鉄くずになっていた可能性は高い

キンバーは、レース後に友人へ300ポンドで売却。農業用トレーラーを牽引していたようだが、1932年にはスクラップ置き場へ追いやられた。もしMGのスタッフが15ポンドで買い取っていなければ、そのまま鉄くずになっていた可能性は高い。

モーリス・モーターズとモーリス・ガレージズは、1930年にMGカー社として再編されており、グレートブリテン島南部、アビンドンの本社ワークショップへ運ばれるとレストア。1950年にもお化粧直しされ、現在は英国自動車博物館に展示されている。

MG「オールド・ナンバーワン」(1925年式/ワンオフモデル)
MG「オールド・ナンバーワン」(1925年式/ワンオフモデル)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

14/28スーパースポーツと同じく、丸いブルノーズ・ラジエーターとボートテールのボディを持つが、それ以外の共通点は殆どない。プロポーションは美しく、シートはスリム。助手席のメカニックは、ドライバーより10cmほど後方へ座る。

フロントガラスはなく、ボンネット後方のスカットル部分は、虫を跳ね上げるようカーブする。当時の写真を確かめると、キンバーは身をかがめるように運転している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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