マツダMX-5(ロードスター)誕生秘話(1) MG TDと偶然の出会い 考えを構築したMGA

公開 : 2025.10.12 17:45

MGAでスポーツカーの考えを構築したと振り返る、ロードスター生みの親の1人 原点にはMG TDとの偶然の出会い 走行音を収録したエラン・タイプ26 UK編集部が初代誕生の秘話へ迫る

父とMG TDとの偶然の出会い

初代マツダMX-5(ロードスター)が、ロータスエラン・タイプ26と似ていることは、AUTOCARの読者ならご存知かもしれない。だがアメリカ東海岸出身で、その生みの親の1人といえるボブ・ホール氏は、異なる影響の方が大きかったと振り返る。

第二次大戦中に英国へ赴任していた父の存在が、その原点にある。彼は、コード・スポーツマンと呼ばれるロードスターをグレートブリテン島へ運び楽しんだが、2.0Lエンジンを積んだアルタ社のスポーツカーと交換。任務後、アメリカへ持ち帰った。

ブルーのマツダMX-5 1.6i(ロータスター)と、ホワイトのMGA ツインカム、レッドのロータス・エラン・タイプ26 S2
ブルーのマツダMX-5 1.6i(ロータスター)と、ホワイトのMGA ツインカム、レッドのロータス・エラン・タイプ26 S2

その後、ボブが誕生。クルマは、部品の入手が難しいことを理由に、モーリス・マイナー・ツアラーになった。ある日、信号待ちしていると、「クルマを交換しない?」と隣へ並んだ男が声をかけてきたという。MG TDを手放すよう、妻に迫られていたとか。

この2シーターのTDは、ホール一家に英国製オープンスポーツの魅力を気付かせた。偶然の出会いが、マツダ・ロードスターのアイデアへ発展していった。

MGAがスポーツカーに対する考えの基盤

数年後、父はトライアンフTR2を購入し、さらにオースチンヒーレー100へ入れ替え。どちらもリアシートを追加し、ファミリーカーにしたという。ボブは幼い頃から、実用性が高くないスポーツカーでも普段使い可能だと、情操教育を受けたといえる。

ホール一家のクルマは、オースチン・ヒーレー3000へ。ボブは、このクルマで運転を学び、免許も取得した。初めての自分のクルマ選びで試乗したのは、MGA ツインカム。この比較が、スポーツカーに対する考えの基盤になったという。

MGA ツインカム(1958〜1960年/英国仕様)
MGA ツインカム(1958〜1960年/英国仕様)

「父は3000を、目抜き通りを流すようなブルバードカーだと表現していました。反対に、MGAは小型・軽量で運転が楽しかった。エンジンの吹け上がりは、ドライバーの熱意に負けないくらい積極的でした」。ボブが振り返る。

アルミ製シリンダーヘッドを載せたツインカムユニットの獲得で、MGAは走りを豹変させたといっていい。それ以前のMGA 1600から最高出力は35%増しの109psになり、遥かにエネルギッシュになっていた。

即時的なレスポンス 意欲的なサウンド

今回ご登場願った、アイボリーのMGA ツインカムはコリン・マンリー氏の1959年式。アクセルレスポンスは即時的で、サウンドは意欲的。サスペンションは柔らかく、カーブでのボディロールは小さくないが、バランスに優れ安定性は高い。

性能自体は驚くほどではないものの、チアリーダーのように気持ちを鼓舞し、右足へ力を込めたくなる。それでいて、急に手のひらを返されることはない。常に楽しい。

MGA ツインカム(1958〜1960年/英国仕様)
MGA ツインカム(1958〜1960年/英国仕様)

ところが、ボブは購入に至らなかった。数日ほど別のクルマ、ファセル・ベガ・ファセリアへ興味を示している間に、他人が契約してしまったとか。「見た目へ釣られて、チャンスを奪われるのは最後にしようと、自分に誓いましたね」。彼が微笑む。

諦めて選んだのはダットサン510、3代目の日産ブルーバード。既に日本車は、信頼性で定評を築いていたが、英国のMGAは対局といえた。「アルファ・ロメオの信頼性を高く見せるようなクルマだと、その頃は冗談をいっていましたよ」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 執筆

    サイモン・フォックス

    Simon Fox

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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