ロータス・エランの直接的な影響ナシ? マツダMX-5(ロードスター)誕生秘話(2)

公開 : 2025.10.12 17:50

MGAでスポーツカーの考えを構築したと振り返る、ロードスター生みの親の1人 原点にはMG TDとの偶然の出会い 走行音を収録したエラン・タイプ26 UK編集部が初代誕生の秘話へ迫る

4気筒ユニットで史上最高のサウンド

今回ご登場願ったロータスエラン・タイプ26は、ゴードン・モリソン氏の1965年式。このツインカムは、4気筒ユニットで史上最高のサウンドを放つと筆者は思う。勇ましくも洗練され、図太くはない。変速するたびに、エッジーな響きが充満する。

カーブへ飛び込めば、スケートボードのようにフラットでシャープ。乗り手との一体感は見事で、乗り心地はしなやか。コリン・チャップマンの魔法が、ここにも掛けられている。60年物だがシャシーの剛性感は驚くほど高く、粗野な振動は伝わらない。

ロータス・エラン・タイプ26 S2(1962〜1973年/英国仕様)
ロータス・エラン・タイプ26 S2(1962〜1973年/英国仕様)

ボブ・ホール氏も含めて、当時のマツダの技術者はエラン・タイプ26のシャシーが持つ能力へ着目。エマ・ピール仕様のレプリカを購入し、レストアされるに至った。それは社用車としてアメリカへ届けられ、2年後に払い下げられる予定も組まれた。

「エンジニアリングの評価へ使用しました。フィーリングを理解するため、何度も試乗しましたよ」。と振り返るボブは、補強フレーム付きのバックボーン・シャシーをマツダも採用するよう、日本側へ打診したという。

今でも印象的な実力 優れた人間工学

細身のビキニ姿の女性がエランを運転する映像を用意し、車内の広さと揺れの小ささを伝えたと、ボブは振り返る。それでも、衝突安全性を理由に採用は見送られた。さらに、そのエランは上層部の要望で日本へ。彼が買い取ることは、結局叶わなかった。

それでも、5速MTとリアアクスルを結合する補強構造は、エランからのヒントといえた。ウィル・ウィリアムズ氏が所有する1992年式の内側にも、ちゃんと備わる。

ロータス・エラン・タイプ26 S2(1962〜1973年/英国仕様)
ロータス・エラン・タイプ26 S2(1962〜1973年/英国仕様)

カーブでの軽快な身のこなしに、しなやかな乗り心地、機敏なアクセルレスポンスなど、実力の高さは今でも印象的。優れた人間工学も、エランと共通する。ステアリングホイールやペダル、シフトレバーの位置は、完璧に整えられている。

トランスミッションには金属製エンドストップが備わり、変速感は機械的。それでも、シャシー剛性はさほど高くない。滑らかな路面では気にならなくても、グレートブリテン島の傷んだ路面では、ダッシュボードやピラーが左右に揺れる。

スタイリングは、様々な要素の融合

ボブは、エランからも刺激を受けたと認める。だがツインカムエンジンは、そこから着想を得たものではないとも話す。「ミアータ(ロードスター)のアイデア以前から、日本側はツインカムの4バルブエンジンに夢中でしたから」

エランと似たスタイリングは、様々な要素の融合による結果だと振り返る。「意図的な結果ではないと断言できます。信じ難いかもしれませんが、エランを見たことがない技術者などは大勢いました。電車通勤の人が多かったと聞いても、驚きませんよ」

マツダMX-5 1.6i(ロータスター/初代/1989〜97年/英国仕様)
マツダMX-5 1.6i(ロータスター/初代/1989〜97年/英国仕様)

「マーク・ジョーダンさんの初期のスケッチを見ると、フロントグリルはフェラーリ風。250 GTOのデザインを気に入っていて、活かそうとしていました」。だが、アメリカの衝突安全規制へ合わせるため、フロントグリルはバンパーと一体になった。

「そこで、エランっぽさを得たんです。同じ課題に対する、望ましいソリューションだったのかもしれませんね」。同様に、カリフォルニアの規制へ準じたヘッドライト高を得るため、リトラクタブル式が採用されたという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 執筆

    サイモン・フォックス

    Simon Fox

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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