【渡辺敏史がラストラン】レクサスLCと名機2UR-GSEが終焉間近!8年をかけて極まった乗り味を阿蘇路で味わう

公開 : 2025.12.17 12:25

ニュアンスで生きるクルマたち

そんなLCのような、ニュアンスで生きるクルマたちがいよいよ存続しづらくなっている理由は思い当たるところもある。ひとつはスポーツモデルの快適性が引き上げられたこと。フェラーリランボルギーニマクラーレンに……と、今やスーパーカー領域のクルマはタウンライドでも苦痛のない乗り心地を備えている。

一方で運動性能面ではSUVも相当なレベルに達しているわけで、機能や性能の軸でみれば大柄なクーペはどっちつかずで不便なものにしかみえない。だからいいんじゃない……のというのは、もう人生の酸いも甘いも噛み分けて山っ気も拔けたオッさんだからいえることで、ギラギラに前のめりな現役組は耳を貸さないだろう。

レクサスLCに搭載されている5L V8の『2UR-GSE』。
レクサスLCに搭載されている5L V8の『2UR-GSE』。    平井大介

そんなことを考えつつゆるゆるとLC500を走らせていると、いつしか道は阿蘇を貫くシチュエーションへと変わる。広大な阿蘇の平原に沿うように通されたそれは、見通しの良い高速のワインディングだ。

それまで周囲の交通に合わせて2000rpm以下の低回転域でぬるぬると歩みを進めていた2UR-GSEは、アクセルの踏量に比して幾重にも表情を変える。2000rpmを超えると脈動音が立ち始め、3500rpmを超えた辺りからはエキゾーストバルブが開放、粒立ちを揃えながら7000rpmオーバーのレッドゾーンまで独特の中高音を鳴り響かせる。

RCFやIS500も同様だが、バルブが開いても直管状態ではなく消音を効かせた節度のある音圧が心地よい。そして音質で独特の高揚感を生み出す辺りはヤマハの調律も奏功しているのだろう。ちなみにヤマハはLFAのサウンドデザインにも深く関わっているが、LC500のそれも音の響かせ方に相通じるものが感じられる。

心の中のベンチマーク

LCの開発を指揮したのは現在の佐藤恒治社長だが、氏はそのベンチマークとして当時のBMW6シリーズの名前を挙げていた。が、それは主力市場である北米での販売台数面からみた商業的な建前であり、自分の心の中にはひっそりと別のベンチマークがあったと話してくれたことがある。

それがマセラティの先代グラントゥーリズモ……だといえば、LCとの繋がりを重ね見ることも出来るだろう。

乗り心地的にもハンドリング的にも極まった感があると筆者。
乗り心地的にもハンドリング的にも極まった感があると筆者。    レクサス

早朝のマルホランド・ドライブを駆け抜けてマリブへと下りカフェに立ち寄る、そんなクルマ好きには至福のウィークエンドをより豊かなひと時にしたい、そういう造り手の想いがもちろんサウンドにも込められているわけだ。

ゆったりとしたワインディングでエンジンを大いに鳴らした後に待ち構えるのはタイトコーナーが連続する山道だ。重量級の大柄なクーペではもちろん、ヒラヒラと舞うように走るというわけにはいかない。が、体躯を忘れさせてくれるほど従順に応答し機敏に反応する、そういうスポーツドライビングへの適応性の高さは充分に感じさせてくれた。

LCは登場から8年以上の時をかけて、ほぼ毎年のようにシャシー周りに改良を加えるなど熟成を極めていて、その過程を体感してきた身としても、現状の仕上がりは乗り心地的にもハンドリング的にも極まった感がある。

その官能性においては類稀なものとして、エンジン史に名を残すことになるだろう2UR-GSE。恐らくはそれを搭載する最後のモデルとなるLC500は、その任を担うに相応しい完成度を身につけながら、いまだ色褪せない存在感も示している。この、真に稀有なビッグクーペは今後、レクサスにとっても日本のクルマ好きにとっても、誇らしい礎であり続けるはずだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事