米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側(前編) 膨大な資料が眠るアーカイブへ潜入 「実話の方がもっと面白い」

公開 : 2026.06.07 11:25

未来と過去が共存する施設

ライアン氏の博識な頭脳の中には、フォードの豊かな歴史が確かに宿っているが、物理的なアーカイブはミシガン州ディアボーンにあるフォード・エンジニアリング・ラボラトリーの中心部に保管されている。ここはまさにアーカイブにふさわしい場所だ。

ボザール様式の装飾が散りばめられた、石灰岩のファサードが特徴的なこの施設は、100年余り前に建設された。当初は、新型車の設計、生産、試験に必要なあらゆる設備に加え、フォードの経理部門、金庫、ディアボーン・インディペンデント紙(地方週刊紙。フォードに買収されて広報紙となった)のオフィス、さらにはダンススタジオ(一時期、受講が義務付けられていた)までがここに収容されていた。

フォード・エンジニアリング・ラボラトリー
フォード・エンジニアリング・ラボラトリー    フォード

その後数十年にわたりさまざまな用途に転用されたが、2007年に閉鎖された。しかし、2015年に改修され、現在は同社の未来(電動化エンジニアリングチーム)と過去(ヘンリー・フォードとヘンリー・フォード2世の執務室、かつての中庭に建てられたフォード・アーカイブス)が共存する場所となっている。

目立たない廊下を進むと、まず博物館のような展示室に入る。アーカイブの見学は予約制で、展示内容は定期的に入れ替わる。筆者が訪れた際はデザインに焦点が当てられており、マスタングブロンコのインテリアトリムに関するパンフレットや資料の隣には、2000年にローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏(現ルノー・グループのデザイン責任者)によって設計されたアドバンスト・コンセプト・トラックの模型が並んでいた。

販促用ヒューマノイドロボットも

第二次世界大戦直後に制作されたチラシまである。自家用車生産の再開に備えて、人々にクルマの買い方を教えるためのものだった(例えば、クロームメッキについては、少しだけ、中程度、それともかなり多い、どれが好み? といった具合に)。

1960年代にディーラーを巡回して販売を支援するために作られたヒューマノイドロボット『フレディ・フォード(Freddie Ford)』も展示されていた。当初は十数種類の回答がプログラムされていたが、アーカイブに関する情報を提供できるよう再調整された。もっとも、ライアン氏や彼の同僚なら、どんな情報でも素早く提供してくれるだろうが。

1960年代のヒューマノイドロボット、フレディ・フォード
1960年代のヒューマノイドロボット、フレディ・フォード

展示室を抜けると、いよいよアーカイブ本体に入る。そこはまさにクルマオタクの天国だ。フレディ・フォードが教えてくれるように、ここには全長3マイル(約4.8km)の書架があり、約1万6000平方フィート(約1500平方メートル)の紙媒体記録、300万点以上の写真やネガ、約1万5000点の視聴覚資料、『フォード・タイムズ』および『フォード・タイムズUK』誌の全号、4500点の3Dオブジェクト、さらには美術作品まで収められている。

加えて、かなりの広さのコーナーに、世界中で新たに発見された資料が入った小包や箱が山積みになっていた。過去75年間のフォードについて知りたいことがあれば、その答えはきっとここにあるはずだ。

過去75年間。そう、フォード・モーター・カンパニーの創業は1903年に遡るが、アーカイブがカバーしているのは1950年以降の資料に限られる。

(翻訳者注釈:この記事は「後編」へ続きます。)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側の前後関係

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