幻のフェラーリ契約書も発掘 米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側(後編) 「歴史を生き生きと蘇らせてくれる」

公開 : 2026.06.07 11:45

現代におけるヘリテージの役割

ライアン氏の仕事の重要な要素の1つは、最新のマスタングやトランジットの発売、あるいはフォード・レーシングのシーズン開幕に向けたモータースポーツ史のまとめなど、フォードの新規プロジェクトを支援する展示物や資料をまとめることだ。その豊かなヘリテージは大きな資産であり、中国の新興メーカーには真似できないものだが、ライアン氏は「ヘリテージはブロードソード(幅広の剣)ではなく、レイピア(短剣)でなければなりません」と主張する。

彼はモータースポーツを例に挙げる。

フォードが保管する資料の多くは今やデジタル化され、ネット上で公開されている。
フォードが保管する資料の多くは今やデジタル化され、ネット上で公開されている。    フォード

「今年はレースの歴史125周年を祝っています。レースは当社のバックボーンの一部ですが、F1やハイパーカーに取り組んでいる時にその話をするわけにはいきません。125年間続けてきたという事実よりも、今何をしているかの方が重要なのです。しかし、125年前にヘンリー・フォードがスウィープステークスでレースをしたという話は、当社の活動に正当性を与えてくれます」

近年、フォードはアーカイブの大部分をデジタル化し、1万9000点以上のパンフレットや写真を含め、オンラインで無料公開することで、まったく新しいユーザー層にリーチしている。ライアン氏によれば、このサイトは「とてつもなく人気」で、月間200万件近い検索があるという。

「目標は、もし子供がマスタングについてのレポートを書いているなら、ウィキペディアやAIに頼らず、オンラインで原本を見つけられるようにすることです」

フォードの膨大なコレクションの中で、ライアン氏のお気に入りの資料は製品開発ファイルだという。

「エンジニアはオタク気質ですから。秘書が彼らの発言をそのままタイプしていたおかげで、新車に対する彼らの批評をすべて読むことができるんです。フォードのコレクションは、コカ・コーラよりもはるかに充実しています。コカ・コーラには自動販売機などの物品が200万点ありましたが、それほど多くの文書は残っていません。もし、ランチェロが生まれた理由を知りたいなら、わたしがご説明しますよ」

見どころ1:ル・マン優勝後のバーの請求書

1966年のフォード初のル・マン優勝を記念して、同社はニューヨークのLe Chanteclairで招待客限定の祝賀会を開いた。バーの請求書を見れば、その夜がいかに盛大なものだったかがわかる。ドリンク453杯、ワイン68本、そして……ケーキ1つだ。

「もし適切な管理プロセスが守られていたら、このバーの請求書は捨てられていたでしょう。わたし達は領収書を保管していませんが、このバーテンダーの領収書は実にクールです。誰かが残してくれたことに感謝していますよ」とライアン氏は言う。

ル・マン優勝後のバーの請求書
ル・マン優勝後のバーの請求書

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

米国随一の自動車メーカー『フォード』の裏側の前後関係

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