欧州責任者が語る『フィアット』のあるべき姿 原点に立ち返り再出発 課題はパンダ後継車 新型『グリズリー』の車名に込めた意味とは

公開 : 2026.09.10 17:05

まだ伸びる余地のある新型500

「まだ完璧とは言えません。500ハイブリッドについては、現状の成果以上に高い期待を抱いています。しかし、2年間も市場から引いていたモデルを再び市場に定着させるのは容易ではありません」

500ハイブリッドは、近年のフィアットの柔軟な対応ぶりを示す1台である。当初の計画では、現行世代はEV専用モデルとなり、前世代のガソリンモデルは生産終了する予定だった。しかし、500eへの需要が予想通りに伸びなかったため、フィアットはプラットフォームを改良し、小型ガソリンエンジンとマニュアル・トランスミッションを搭載できるようにしたのだ。

フィアット500ハイブリッド
フィアット500ハイブリッド

500は2007年の復活以来、大きな成功を収めており、その人気はブランド自体の人気を凌駕するほどだ。したがって、ステランティスのコスト重視のスマートカー・プラットフォームをベースに、フィアットのもう1つの小型クラシックモデルの精神を蘇らせたグランデパンダこそが、小型車に特化するというブランドの専門性を確固たるものにしたと言えるだろう。

フィアット最大の新型SUV

トレル氏は、「フィアットには2つの領域があります。小型車と小型商用車です。乗用車に関しては、フィアットのルールは明確で、全長は2.0mから4.5mまでです」と述べた。

最小モデルはトポリーノだが、今年フィアットはその反対側に位置するCセグメントのSUV、新型『グリズリー』を発表した。グリズリーは当初、欧州市場を念頭に開発されたわけではなかったが、開発中に方針が変わった。

フィアット・グリズリー
フィアット・グリズリー

「グリズリーは、フィアットらしいプロジェクトの典型例です。グローバルなモデルであり、トルコやラテンアメリカでの競争を想定して設計されていますが、ここ欧州においても、これまでとは異なるコンセプトのファミリーとして提供できるからです」とトレル氏は語る。

全長が4.5m近くに達するにもかかわらず、グリズリーはグランデパンダと同じコスト重視のスマートカー・プラットフォームを採用しており、トレル氏は「価格を公表した際、市場を驚かせるでしょう」と自信を見せる。

グリズリーは、SUVモデルに続いてファストバックモデルも投入される予定で、いずれもEVおよびハイブリッド車が用意される。

低価格のパンダ後継車も計画中

さらに、トレル氏の大きな課題として、パンダの後継車がある。現行世代のパンダは2012年に発売され、英国ではすでに販売終了しているが、イタリアでは今もベストセラー車であり続けている(イタリアでは現在『パンディーナ』として販売)。

トレル氏は「パンダユーザー」への責任として、EVへの乗り換えを望まない顧客のために手頃な価格の後継車を開発する意向を示している。これは容易な課題ではない。小型車への需要は確かに存在するが、利益率は低いからだ。そのため、多くの競合他社が小型車から撤退してしまった。

パンダは今もイタリアで『パンディーナ』として販売されている
パンダは今もイタリアで『パンディーナ』として販売されている

「これはブランドの社会的役割に関わる問題です」とトレル氏は言う。「わたし達がイタリアにおいて社会的責任を負っているのは明らかです。イタリアは小型車の国ですから」

そうした姿勢から、パンダ後継車をイタリアで生産するよう推進しているという。トレル氏は「経済的には最善の決断ではないかもしれませんが、わたしにとってこれは経済的要因を超えた問題なのです」と指摘する。

万人のためのブランドではない

欧州におけるこうした課題に対し、フィアットとトレル氏は明確な戦略と確固たる決意を持って立ち向かっている。すなわち、「スモール」な製品に力を入れることで、再び「ビッグ」な存在になるというものだ。

「自らの理念が明確であれば、すべてがずっと容易になります。Dセグメント車などを開発する必要性は感じていません。ステランティスには、そのためのきょうだいブランドがあるからです」

「フィアットは万人のためのブランドではありません。そう装うつもりもありません。小型車として認知されている――それだけで十分です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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