ロードテスト(3) マクラーレン720S ★★★★★★★★★★

公開 : 2017.08.13 10:10  更新 : 2018.01.19 18:11

動力性能 ★★★★★★★★★★

スーパーカーとは、ハイパーカーとは、はたまたスーパースポーツカーとは何か。その定義付けは多くの議論があるところだが、速さによる区分は明らかだ。

ゼロヨンのタイムであれば、マクラーレンP1やブガッティ・ヴェイロン・スーパースポーツ、ポルシェ918スパイダーといったハイパーカーが10秒台、フェラーリ488GTBやランボルギーニウラカンなど最新のミドシップスーパーカーなら11秒程度、ポルシェ911ターボや日産GT-RジャガーFタイプSVRなどのスーパースポーツカーは12秒ほどである。

しかし、このロジックをぶった切ってみせたのが570Sだった。スーパースポーツカーの価格で、スーパーカー並みの加速をしたのである。

720Sもまた同様に、パフォーマンスの段階が予想されるより高い。ベンチマークの再定義が、マクラーレンの新型車が出るたび必要になりそうだ。

720Sのゼロヨンタイムは10.4秒。これは、競合モデルである488GTBの10.9秒より、むしろP1の10.2秒に近い。2名乗車で燃料を満タンにし、往復計測した平均値は、0-97km/hが2.9秒、0-161km/hが5.6秒。

これを488GTBの測定値(3.1秒/6.4秒)と比較すると、スタートから3秒ほどは720Sが488GTBをわずかにリードするのみだが、速度が上がるほどに差は広がる。そして270km/hを超える頃には5秒近くにまで開くのだ。

やがて1マイル、すなわち約1.6kmのストレートエンドに達する前に300km/hを超えるが、その所要時間はP1に対し1秒と違わず、ブレーキングの余地もわずかながら残る。この速さ、これまでの基準通りのカテゴリー分けには当てはまらない。

エンジンはストロークが伸びてもオーバースクエアで、パワーデリバリーはそれを感じさせる。フレキシブルさに欠けることはまったくないが、本気の発進加速を狙うなら、回転を4000rpmに上げておく必要がある。

そうすれば、驚くほど速い。予測しえないほどシームレスかつスムースに、それでもなおドラマティックに、8000rpmオーバーへ猛然と回転を上げていく。

7段のギヤボックスは、低速域ではソフトに変速できるが、トラック・モードで高回転域に入るとそれにこの上ないクイックさが加わる。

Dレンジに入れたままなら、トランスミッションの制御ロジックの改善が感じられるだろう。スポーツ・モードでは、オーバーテイクしようという兆候を感知すると、スロットルペダルを深く踏み始めた途端にギヤを2〜3段落とす。

残念だったのは2点だけ。まずはMP4-12Cのデビューから6年経ったにもかかわらず、ウォーキングはいまだに正真正銘のスーパーカーサウンドを調律できていない。

720Sのエンジンは650Sよりギリギリ、ヒューヒュー、シューシューとにぎやかに音を立てるが、怒れるターミネーターとでもいった雰囲気はそのままだ。豊潤、完備、感動的といった、一流のスーパーカーのエンジンサウンドにつきものの形容詞とは縁遠い。

もうひとつは、カーボンセラミック・ブレーキの利きはじめの食い付きやペダルのフィールがあまりよくないことだ。とはいえ、どちらもクルマ全体の高い完成度からすれば些細な問題である。そのパフォーマンスをひとことでまとめるなら、驚異的というに尽きる。

ドライサーキット

マクラーレン720S:1分6秒1

マクラーレンP1:1分6秒8

T5でハードブレーキングした際の高速安定性は、650Sより優れる。

720Sは、T4を全開で駆け抜けることはできなかったが、ノーズを安定させるのにスロットル調整はほとんど必要ない。

ウエットサーキット

マクラーレン720S:1分9秒2

マクラーレンP1:1分20秒5

バリアブル・ドリフト・コントロールは、T7旋回時に、さまざまな運転の仕方を許容してくれる。

720Sはボディの中ほどを軸に回るように感じられる。その位置は運転席の少し前か、もしくは着座位置と、車体の中心線の交点あたりだ。これが650Sであれば、そう感じられることは決してない。

また、650Sはクルマが運転の仕方を要求してくるが、720Sはもっと寛大で、融通が利き、ドライビングに没頭できる。

アンダーステアは650Sより弱く、方向転換の能力に疑問の余地はない。このクラスで、絶対的に最も俊敏なクルマだ。

スライドは始まりも終わりも、どのようにコーナーへ進入したかによる。ブレーキを残してターンインすれば、リヤの滑り出しは予期でき、何らかの前兆も伴う。

ESCがフルに機能していれば適切な判断がなされ、ハーフに設定すればスリップも許容する。オフならばバリアブル・ドリフト・コントロールがトラクションコントロールのように機能し、辛うじて感じ取れる程度から思わず歓喜の叫びをあげるくらいまで、自由自在に滑らせることができる。

しかし、やはり一番楽しいのは、全てを切った状態だ。たとえそれが、タイム的には最速ではないにしても。

発進加速

テストトラック条件:乾燥路面/気温22℃
0-402m発進加速:10.4秒(到達速度:230.9km/h)
0-1000m発進加速:18.5秒(到達速度:289.4km/h)

マクラーレンP1(参考結果)
テストトラック条件:乾燥路面/気温16℃
0-402m発進加速:10.2秒(到達速度:237.4km/h)
0-1000m発進加速:18.2秒(到達速度:287.3km/h)

制動距離

97-0km/h制動時間:2.44秒

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