麗しきフェラーリ初ミドシップ・スポーツカー ディーノ206GTに試乗 前編

公開 : 2019.09.07 07:50  更新 : 2020.12.08 10:56

走行可能なディーノ206は英国では1台

オールアルミのクワッドカム・エンジンは、横向きに搭載。同じユニットを搭載したフィアット・ディーノよりも20psほど強力だった。フィアットのリバルタ工場で製造されたV6エンジンは、リアシャフトの前にマウントされ後輪を駆動。182psのパワーはピニオンギアを介して、プライマリーシャフトへ伝わり、マラッネロが設計・製造をした5速マニュアルへと導かれた。アルミニウム製のハウジングを持つトランスミッションには、リミテッドスリップデフも内蔵する。

206のレイアウトは革新的なものだったが、シャシーの素材や構造は従来的。アルミニウム製のボディパネルは、電気溶接された楕円形の交換パイプフレームに固定されている。サスペンションは不等長のウイッシュボーンを持ち、タイヤは当時最新だったミシュラン製の14インチ。4輪ともにベンチレーテッド・ディスクブレーキが奢られ、V型12気筒モデル群を差し置いて、初めてラックアンドピニオンのステアリングラックを備えたフェラーリでもあった。

ディーノ206GT(1967年〜1969年)
ディーノ206GT(1967年〜1969年)

今回の1969年式206GTは、細部に至るまで完璧なコンディションを保つ、英国で唯一の実走行が可能なクルマだと考えられる。かつては有名なコレクター、アルベルト・オブリストが所有していたクルマで、10年ほど前にバーニー・エクレストンが譲り受けている。

206GTは丁寧に分解され、専門家のバルカーウェイズ社によって3年間を掛けてリビルトされている。フェラーリの内装材などを専門に扱うルッピ社がインテリアを担当した。V6エンジンには新しいクランクシャフトが用意され、ブロックは水中溶接技術によって修復されている。

コンパクトなドライブトレイン

幅の細いバンパーに細いタイヤが組み合わされ、テールパイプなど206専用の部品も作り直された。アメリカから取り寄せた、クロームメッキのフィラーキャップだけでも1700ポンド(22万円)だというから、かなりの大金が掛かっていることは間違いない。

このディーノはエアコンの効いた巨大な車庫の中で暮らしている。中には20台ほどのフェラーリが停まっていたが、美しさではディーノが一番だった。ボディカラーはロッソ・ディーノと呼ばれる、オレンジがかった赤。フェラーリの中でも可憐なシンデレラのような存在感は、同じ車庫にいる綺羅びやかな現代の子孫たちをも引き立てているようだった。

ディーノ206GT(1967年〜1969年)
ディーノ206GT(1967年〜1969年)

車格でいうとフォード・コーティナMk2に近いが、206GTはずっと小さく見える。完璧なスタンスとプロポーションを備えたエクステリアデザインに、目は釘付けになった。クルマを美術作品だと感じたことがないひとでも、これなら見方を改めるだろう。フロントノーズにはフェラーリのロゴはない。フロントエンジンのフィアット・ディーノと共有するアルミパーツには、「FIAT」と刻印が入る。

エンジンカバーを開けば、ディーノの最大の特徴でもある落ち着きのあるハンドリングは、パッケージングが生んでいることに気付かされる。コンパクトなドライブトレインが車両中央に収まり、ボディ後半には実用的な大きさのラゲッジスペースすら備わるほどだ。点火装置はディノプレックス社製のものを採用し、交通渋滞でも対応できるように設計された。フロントノーズにはスペアタイヤとラジエターが納まる。

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