【グランプリから大陸横断旅行まで】ブガッティ・タイプ57Sカブリオレ 後編

公開 : 2020.08.23 16:50  更新 : 2020.12.08 08:35

落ち着くドライビングポジション

レストアを終えたタイプ57Sは、ブラックとイエローのツートンに美しく塗られて姿を現した。スタイリッシュなブガッティはファッション界の巨人、ラルフ・ローレンをも引き寄せた。

数年後、再び売りに出され、2001年に大西洋を横断。スペインのミゲル・ゴンザレスが、素晴らしいブガッティ・コレクションの1台として迎え入れ、現在に至る。

ブガッティ・タイプ57Sカブリオレ(1936年)
ブガッティ・タイプ57Sカブリオレ(1936年)

ドアを開くと、長く伸びるクロームメッキのステアリングコラムが眩しい。細身のシフトレバーと、パイプフレームで組まれたシートに目が奪われる。ハンドスロットルと点火時期調整のレバーも、モルスアイム生まれの特徴だ。

ブガッティ・タイプ57ほど、落ち着くドライビングポジションを備えるクラシックも珍しい。温かい夏の日なら、チョークを開くのは少しでイイ。

3.2Lの直列8気筒エンジンが目覚める。ドライサンプだから、オイルが温まるには少し時間がかかる。ブガッティのクーペの車内は、すぐにオーブンのように熱くなる。今日のように天気が良い日は、カブリオレは大歓迎だ。

低速域では、エンジンは驚くほどに柔軟性がある。交通の流れに合わせることも、造作ない。

アクセルペダルを踏み込むとエネルギーが高まり、エンジンノイズは洗練されたハミングから、クラシックらしい唸り声へと変化する。追加されたスーパーチャージャーが鳴る。

タイプ57Sの人生を振り返るような響き

速度が増すとステアリングが軽くなる。英国製のボディは、高速域でも粗野な振動やきしみ音を生じない。

高価なデ・ラム・ダンパーは良く整備されている様子。コーナリング中、リア周りのバランスも良い。わずかにアンダーステアが生じる。

ブガッティ・タイプ57Sカブリオレ(1936年)
ブガッティ・タイプ57Sカブリオレ(1936年)

高速時には、フロントタイヤがややバウンドする感覚がある。でもコーナーの出口で、レスポンスの良いエンジンから滑らかにパワーが引き出されると、細かいことは忘れてしまう。

5500rpmで得られる最高出力は202ps。感心するほどのパフォーマンスを備えている。ドラムブレーキの効きが試される性能だが、ペダルの感覚はしっかりしていて、制動力も漸進的だ。

トランスミッションにはシンクロがないから、変速は丁寧に。ペダルレイアウトは一般的で、ブレーキとアクセルの位置が近い。ダブルクラッチも踏みやすい。

トップギアに入れれば、ブガッティ・タイプ75Sは110km/hで巡航できる。実際に走らせてみると、マシソンが麗しいカブリオレで大陸横断旅行を楽しめた理由も理解できる。

エンジンの回転数に合わせて、メカノイズが沸き立つ。格別なロードカーとして、短命なレーシングカーとして、シャシー番号57491が過ごしてきた時間を振り返るような響きだ。

地獄のような戦争が終わり、美しい大女優とともに欧州大陸を駆け巡ったブガッティ・タイプ57S。マシソンにとっては、天国にいるかのような、極上のカブリオレだったに違いない。

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