【映画人の愛したリムジン】ロールス・ロイス・ファントムV 当時最高峰の走るオフィス 後編

公開 : 2021.10.10 17:45  更新 : 2021.10.11 17:44

ジェームズ・ボンドのディレクターズ・カーとして、多くの俳優や著名人を乗せてきたファントムV。英国編集部が、類を見ない経歴のリムジンご紹介します。

車重2.5t、0-100km/h加速13.8秒

執筆:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
撮影:Will Williams(ウィル・ウイリアムズ)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
ロールス・ロイスファントムVのオーナーとなった映画監督、マイケル・ウィナーで有名な作品といえば、「狼よさらば」や「ロサンゼルス」などの、デス・ウィッシュ・シリーズ。シルバーのベントレーT1など、高級モデルのコレクションを有していた。

彼はファントムVを大切にし、運転手としてマイケル・ホワイトと呼ばれる人物を雇った。恐らく、初代オーナーのハリー・サルツマンも、自身の手でロールス・ロイスのステアリングホイールを握ることはなかっただろう。

 ロールス・ロイス・ファントムV(1965年/英国仕様)
ロールス・ロイス・ファントムV(1965年/英国仕様)

運転していれば、ロールス・ロイスの素晴らしさに改めて驚いたかもしれない。車重が2.5t以上あるクルマが、ボルボP1800と同等の13.8秒で静止状態から100km/hまで加速でき、同時にデリケートにロンドンの道路へ交われたのだから。

完成から56年が過ぎたが、このファントムVは大きなレストアを受けていない。必要なら本来の俊足も披露できる、手入れの行き届いた1台だ。フォーマルな世界で現役として走り、ストレッチされた白いハマーのようなクルマとは別次元の優雅さを漂わせる。

7シーター・リムジンとして、これ以上に妖艶なモデルは存在しただろうか。唯一、コーチビルダーのジェームズ・ヤング社が手掛けた、ツーリング・リムジンくらいではないかと思う。

多くのファントムVと同様に、フロントシートはレザー張り。リアシート側はウェスト・オブ・イングランドと呼ばれる柔らかなウール・クロスだ。コノリー・レザーで仕立てることも可能だったが、実際はオーナーの要望の殆どに対応できた。

理想より控えめなドラムブレーキ

スターターモーターは現代的なハイトルク・タイプに交換され、エンジンは一発始動。均一な囁きでアイドリングを始める。

ダッシュボードの構造は通常のクラウドとほぼ同じ。中央部分にメーターパネルが収まり、大径でスリムなステアリングホイール右側には、小物入れの空洞がある。

 ロールス・ロイス・ファントムV(1965年/英国仕様)
ロールス・ロイス・ファントムV(1965年/英国仕様)

着座姿勢は背筋を伸ばしたコマンド・スタイル。ボンネットを見下ろせ、多くのリムジンとは違って、ドライバーが窮屈に感じたり居心地が悪いようなこともない。

エンジンは甘美に回り、ハイドラマティックと呼ばれるGM社製のオートマティックは、1940年代の基本設計であることを考えれば変速も滑らか。ファントムVの走行距離の短さを物語っている。

シルバークラウドIIIよりも低いアスクルレシオを与えることで、低速域での滑らかな走りと、活発な加速を実現させた。結果、最高速度は160km/hをわずかに超える程度へ制限されている。

車重は2721kg。現代版ファントムと、ほぼ同じ重さにある。

ブレーキは、重さとスピードを考えれば、本来備わるべきものより頼りない。トランスミッションで駆動されるサーボ・アシストが付くが、低速域での減速時でも、想像より強いペダル操作が求められる。

同じメカニズムを搭載するファントムやクラウドは、ドラムブレーキでも効果的に減速してくれる。でもファントムVを運転する場合は、注意が必要だ。

この記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報部を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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