ヴォグゾールMタイプとサンビーム14/40 100年前のファミリーサルーン 後編

公開 : 2022.01.02 20:25  更新 : 2022.08.08 07:17

70km/h以上での巡航も問題ない

サンビームとは異なり、アクセルペダルは中央。発進前に、ペダルの位置を確認して、少し集中する必要がある。エンジンの始動はイグニッションをオンにして、ボタンを押すだけ。エグゾーストから威勢のいい燃焼音を放って目覚めた。

戦前のクルマに共通するが、操作系は軽く、とてもデリケート。シフトレバーは静かに、正しい位置へ倒す必要がある。ギアとエンジンの回転数を合わせるために、変速の合間にはゆっくりとダブルクラッチを踏む必要がある。

ヴォグゾール14HP Mタイプ(モデルM/1921〜1927年/英国仕様)
ヴォグゾール14HP Mタイプ(モデルM/1921〜1927年/英国仕様)

決してスポーティといえるクルマではないが、ヴォグゾールのステアリング・レシオはクイック。この時代のクルマとしては小さいステアリングホイールが、一層そう感じさせる。低速域では筋力が求められるが、25km/hを超えてくると軽くなる。

ビンテージもののヴォグゾールは、ブレーキが効かないことで有名だったりする。最初の減速時は心配したが、杞憂だった。足で踏むブレーキペダルは緊急用。ハンドブレーキで通常は減速させるのだが、特に不安にさせることもなく制動力が立ち上がった。

戦前の優れたモデルとして、Mタイプは70km/h以上での巡航も問題ない。とても機敏に回頭する。路面が乱れていると、ショックアブソーバーのないリアアクスルが少し暴れるけれど。

サンビームへ乗り換える。第一印象は、よりシッカリした印象だった。操縦系の重み付けも、路面に空いた穴の処理などでも、落ち着きがある。

より安心して運転できるサンビーム

14/40のステアリングホイールは、Mタイプよりはるかに大きい。速度域を問わずステアリングが重いため、ありがたい大きさといえる。

エンジンの回転数を上げてシフトアップ。ヴォグゾールより変速しやすい。トップのレシオは高いもののギア比の差が大きく、2速で充分に回転数を高める必要がある。

サンビーム・フォーティーン(14/40/1922〜1926年/英国仕様)
サンビーム・フォーティーン(14/40/1922〜1926年/英国仕様)

サンビームはエグゾーストノートも控えめで、加速も穏やか。全体のゆったりした質感と相まって、穏やかに巡航するのに素晴らしい。車内はフロントシート側がワイドで、運転席と助手席との間隔にもゆとりがある。

ホイールベースはヴォグゾールより長く、ハートフォード社製のダンパーがリアアクスルに付いている。コーナーを曲がっても、落ち着きを失いにくい。

当初から標準装備されていた四輪ブレーキは、制動力が漸進的に立ち上がり強力。ペダル配置も現代のクルマに共通しているから、筆者はヴォグゾールより安心して運転することができた。

今から100年ほど前に誕生した、英国の上級ブランドによるダウンサイジング・モデル。当時のドライバーにとって、充分といえる内容を備えていたことを、改めて確認することができた。

1920年代の英国で施行された税制に対応するため、両社に迫られた新モデル開発。革新的といえる技術を、短期間で創出することにもつながった。

その結果誕生した、ヴォグゾール14HP Mタイプとサンビーム14/40。優れた選択肢としてどちらを選ぶべきか、その頃の多くのドライバーを悩ませたことだろう。

記事に関わった人々

  • オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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