ヴォグゾールMタイプとサンビーム14/40 100年前のファミリーサルーン 後編

公開 : 2022.01.02 20:25  更新 : 2022.08.08 07:17

1920年代の社会情勢に合わせて登場した、2台のサルーン。100年前の貴重なモデルを、英国編集部がご紹介します。

46年間もMタイプを乗り継いだ一家

納屋で放置されたサンビーム14/40を購入したケン・ウィルソン氏は、数年後、偶然にエリック・オデール氏という人物と出会う。オデールは数台のオートバイ・コレクションを所有していた。

そこで、たまたまサンビームのハンドブックを発見。14/40のシャシー番号やナンバーが一致することに気付いたそうだ。

ブラウンのヴォグゾール14HP Mタイプと、ブラックのサンビーム・フォーティーン(14/40)
ブラウンのヴォグゾール14HP Mタイプと、ブラックのサンビーム・フォーティーン(14/40)

オデールは、1946年に第二次大戦が終結すると、部隊の上司だったシドニー・テイラーと帰国。話の上で、テイラーからオデールはサンビーム14/40を譲ってもらっていた。しかしクルマのことを完全に忘れており、納屋に放置されていたのだった。

その後、現オーナーのマイク・ダンサー氏がウィルソンから1994年に購入。2001年にウィルソンが亡くなるまで、頻繁にクラシックカー・イベントへ一緒に参加していたそうだ。

他方、ブラウンのヴォグゾールMタイプはこれまでの52年間、ヴォグゾール・モータース社自らが保有している1923年式のクラシック。ブランドの歴史を示すヘリテイジ・コレクションとして、重要な1台となっている。

OK 9076のナンバーが付いたMタイプの最初のオーナーは、英国南西部のデボン州に住むギブソン一家。クルマとしては14HP Mタイプだが、現状は1925年以降のLMタイプ用ブレーキが組まれている。

ホイールも元のミシュラン社製ディスクからワイヤーへ交換されているものの、プリンストン・ツアラー社が手掛けたボディはオリジナルのまま。ギブソン一家は3世代にわたり、46年間もMタイプを大切に乗った。走行距離は40万kmを超えていたそうだ。

ドライビング体験は大きく異なる

1970年代が始まる前に、ヴォグゾールは第二次大戦前に生産したモデルの重要性に気付き始めていた。極めて少ない現存するMタイプを発見すると、ヴォグゾールはギブソン一家へ連絡を取り、買い取りを打診した。

1969年12月に契約がまとまり、トーマス・ギブソンはヴォグゾールへ譲渡。ロンドンの北、ルートンに拠点のあったヴォグゾールの設計オフィス付近で、彼は最後のドライブを楽しんだ。

ヴォグゾール14HP Mタイプ(モデルM/1921〜1927年/英国仕様)
ヴォグゾール14HP Mタイプ(モデルM/1921〜1927年/英国仕様)

Mタイプで設計オフィスへ到着すると、トーマスを待っていたのは新車のビバHB 1600。地元の新聞にも大きく掲載された、心温まるエピソードになった。

そんな逸話と同じくらい、取材時も温かい気温に恵まれた。暑すぎず寒すぎず、約100年前のクルマを運転するのに、これほど適した日はなかっただろう。

1年違いで作られたヴォグゾールとサンビームの2台は、類似点が多い。標準仕様のツーリングボディを載せた14/40の車重は1110kgだが、Mタイプの1100kgと10kgしか違わない。

パッケージングは似ている2台ながら、ドライビング体験は大きく異なる。当時のクルマ好きの意見を二分させたであろうことは、想像に難くない。

ヴォグゾールMタイプに乗り込むと、小柄なボディのメリットをすぐに理解できる。シフトレバーとハンドブレーキはコクピット内の右膝付近。1速は前方に倒すと入る。

記事に関わった人々

  • オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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