(一応)フェラーリ初EV 3/4サイズの250テスタロッサ試乗 ホビー用とは思えぬ価格と品質

公開 : 2021.12.25 11:50

場違いに思えるマネッティーノを装備

中年太りのオジサンが乗り込むなどというのは馬鹿げた話に思えるし、乗り込んだ姿もまたもの笑の種だろう。とはいえ、そもそも子供向けに造られているのだから、つべこべ言わずに乗ってみよう。すると、驚くべきことにこのテスタロッサJは、身長190cm近い自分でも、比較的楽にコクピットへ収まることができたのだ。脚を伸ばした先に、珠玉のV12が鎮座していたならこうはいかなかっただろうが、幸か不幸かそこにはバッテリーしか積まれていない。ちなみに、ハンドル位置は全車とも左だ。

視線を落とすと、オリジナルのデザインを忠実に再現したメーターが目に入る。フォントまでそっくりだ。もちろん、そこに割り振られた機能は異なる。水温と油温の代わりに掲示されるのは、バッテリーとモーターの温度だ。また、燃料計は充電量に、回転計は速度計に変更され、エネルギー回生ゲージまで備えている。

内装もオリジナルを再現しているが、モード切り替えスイッチが現代の製品であることを教える。スペースは、大人でも無理なく乗り込めるもの。最高速度と航続距離は、私有地で遊ぶには十分なレベルだ。
内装もオリジナルを再現しているが、モード切り替えスイッチが現代の製品であることを教える。スペースは、大人でも無理なく乗り込めるもの。最高速度と航続距離は、私有地で遊ぶには十分なレベルだ。

そのほかにも、現代的な変更点がある。まさか1957年型テスタロッサのレプリカに、マネッティーノのスイッチを見つけることになろうとは思いもしなかった。モードはノーヴィス/コンフォート/スポーツ/レースの4つ。それぞれ最高速度が異なり、下は20km/h以下、上は60km/h以上となり、おそらく80km/hくらいまでは出そうな感触だった。

フルチャージを使い切るまでに走れるレンジは100km弱といったところ。ただしこのクルマ、ナンバーを取得できないので、公道走行は不可能だ。となれば、スピードも航続距離も十分だろう。

非力ながらテールスライドも楽しめる

空車重量は250kgにすぎない。ただし、筆者が乗り込むとウェイトは一気に3割ほど増すのだが。オーセンティックな見た目のノブを右にひねり、F8トリブートから流用しているスロットルペダルを踏み込むと、小さなテスタロッサは動き出す。

ビスター・ヘリテージのテストコースは、このクルマにこれ以上ないほどピッタリのシチュエーションだった。短くタイトで、試乗した当日は路面が湿ってもいた。この状況なら、パフォーマンスを存分に楽しめる。

スペースフレームらしい挙動を見せるテスタロッサJは、走らせるとおもちゃだということを忘れる楽しさ。往年のF1ドライバーになり切ってみたフランケルだが、そちらの再現度はクルマに負けていた。
スペースフレームらしい挙動を見せるテスタロッサJは、走らせるとおもちゃだということを忘れる楽しさ。往年のF1ドライバーになり切ってみたフランケルだが、そちらの再現度はクルマに負けていた。

タイヤは、ピレリフィアットのヌオーバ500愛好家のためにリバイバルしたチンチュラートCN54で、乗り心地はかなり硬い。スペースフレーム越しに奇妙な突き上げを感じるのだが、これはこの構造ならではの挙動でもある。

飛ばしてみると、これがじつに楽しい。子ども向けのおもちゃのクルマに夢中になるなんて大人げないのではないだろうかと、気にしていたのもはじめのうちだけ。結局は、そんなことどうでもよくなってしまうのだ。はたしてそんなことできるのかと気になっていた、テールスライドまでこなしてくれるのだから。

テールを蹴っ飛ばすほどのパワーはないが、それは賢明なことだろう。しかし、オーバースピードでコーナーへ突っ込んでスロットルを抜けば、荷重移動がいい仕事をしてくれる。そこからパワーオンしてカウンターを当て、リトルカー・カンパニーのスタッフが見守る中でしかめっ面をしてみる。向こうからは、鋭い目つきで、冷静に彼らの仕事ぶりを批評しているように見えただろう。マイク・ホーソーンのモノマネをしていると気づいて大笑いしてくれるほど、そのスタッフは年配ではなかった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    関耕一郎

    Koichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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