エンジンはDB5 ヴァンテージ仕様 アストン マーティンDB4 価値あるモディファイ 後編

公開 : 2022.03.26 07:06  更新 : 2022.08.08 07:13

最もバランスに優れたチューニング

DB4 GTのエンジンが少々ワイルド過ぎると考えるなら、この4.0Lエンジンは、恐らくタデックが手掛けたユニットとして最もバランスに優れたチューニングかもしれない。精悍に吹け上がるが、洗練されてもいる。

低い回転域からたくましく、傑作の直列6気筒エンジンへ期待する通りの、ドライで感情豊なサウンドが響き渡る。2速や3速でもトルクに不足はなく、キャブレターが咳き込むようなこともない。

アストン マーティンDB4 シリーズ1(タデック・マレク仕様/1959年)
アストン マーティンDB4 シリーズ1(タデック・マレク仕様/1959年)

とても上質に回る。SUキャブレターに換装されていると勘違いしても、不思議ではない。

アクセルペダルは、やや不格好に変更されている。アヴス・サーキットでのクラッシュ時にタデックが負った怪我が、原因かもしれない。

クロスレシオが与えられたトランスミッションは、軽快に次のギアを選べる。シフトレバーの動きは正確でタイトで、心地良い。車重や馬力を上回るほど、ディスクブレーキは強力に効く。

クラッチペダルとステアリングホイールはやや重めだが、すぐに気にならなくなる。DB4を意のままに操れる。ステアリングのレシオは高く、時折フロントタイヤからキックバックが伝わってくる。それでも、精細に導ける。アンダーステアもない。

中速コーナーを、右足へ掛ける力と相談しながら流れるようにクリアする。安定していて懐は深い。ドライバーの充足感は高い。

タデックが手を加えたという固有の価値

内燃エンジンとは、自動車の価値を左右する、複雑で個性豊かなプロダクトだ。ある時代では、最も重要な要素をなしていた。

アストン マーティンのエンジンを開発したタデックは、1969年にイタリアで余生を過ごし始めるまで、このKKX 4CのDB4を所有していた。その後は、ビジネスパートナーのジェームズ・ニコルソン氏へと託された。

アストン マーティンDB4 シリーズ1(タデック・マレク仕様/1959年)
アストン マーティンDB4 シリーズ1(タデック・マレク仕様/1959年)

1974年にロビン・クック氏がオーナーとなり、長年貴重な状態を保ち続けてきた。完全なオリジナル状態へ戻すこともできたはずだし、乗りやすくレストモッドすることも可能だったはず。しかしクルマ固有の歴史を理解し、尊重してきた。

タデックが初代オーナーだったという過去に、どの程度の価値を見出すのかは、受け止め方次第だろう。このDB4 シリーズ1が、改造されていることは確かだ。しかし、現在まで手を加えなかったジェームズとロビンの判断は、大正解だったと筆者は思う。

協力:ニコラス・ミー社

アストン マーティンDB4 シリーズ1のスペック(1958〜1963年/英国仕様)

英国価格:4084ポンド(1992年時)/100万ポンド(約1億5500万円)以下(現在)
生産台数:1204台(シリーズ1合計)
全長:4496mm
全幅:1676mm
全高:1334mm
最高速度:226km/h
0-97km/h加速:8.5秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:1393kg
パワートレイン:直列6気筒3670cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:243ps/5500rpm
最大トルク:33.1kg-m/4250rpm
ギアボックス:4速マニュアル

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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