悠々なほど深遠な能力 マセラティMC20 チェロへ試乗 優雅に速いオープン・スーパーカー

公開 : 2022.10.28 08:25  更新 : 2022.11.30 13:37

マセラティ復活を象徴するような、V6ツインターボのMRスーパーカー。オープントップの仕上がりを英国編集部が評価しました。

深遠な能力で落ち着いた気分になれる

悠々。マセラティの最新ミドシップモデル、MC20 チェロへ試乗して、こんな言葉が浮かんできた。

スーパーカーの印象として、一般的な表現ではないかもしれない。しかしこのクルマを運転すると、秘めた深遠な能力のおかげで、望外に落ち着いた気分にさせられたのだ。

マセラティMC20 チェロ(欧州仕様)
マセラティMC20 チェロ(欧州仕様)

もちろん、走りは決して鈍重ではない。カーブの続く手強いルートへ、臆することなく飛び込んでいける。3.0L V6ツインターボ・エンジンは630psを発揮し、圧倒されるほどの加速を生み出す。最大トルクは74.2kg-mあり、極めて扱いやすい。

必要なら、大きくて軽いカーボンセラミックブレーキが速度をしっかり絞ってくれる。シャシーもカーボンファイバー製で、極めて強固。ルーフが切り取られても、さしたる問題はないようだ。

4本のタイヤを吊り下げるのは、前後ともにダブルウイッシュボーン式のサスペンション。アダプティブダンパーの制御は素晴らしく、最適な減衰力を瞬時に与える。

ドライブモードには、ウェット、GT、スポーツ、コルサ(レース)の4種類が設けられている。各モードによる操縦特性の変化の幅は非常に大きい。MC20のポテンシャルの高さを証明するように。

パワフルでありながら上品で、洗練された歴史あるマセラティ・ブランドに相応しい内容といえる。そして、その容姿にも見惚れてしまう。

GTモードはクルージングにピッタリ

MC20は、カナードやディフューザーがこれ見よがしに付加された、エアロダイナミクス最優先のスタイリングではない。過度に大きいエアインテークも、威圧的なフロントフェイスも与えられていない。ビビッドなカラーで、視線を集めることもない。

「アロガント(傲慢)ではなく、エレガント(優雅)なデザインです」。主任開発技術者のジャンルカ・アンティノリ氏が、優しく説明する。ただし、見た目がアグレッシブでなくても、MC20 チェロがハードコアな走りを受け付けないわけではない。

マセラティMC20 チェロ(欧州仕様)
マセラティMC20 チェロ(欧州仕様)

今回の試乗場所となったのは、イタリア・シシリー島の東部、エトナ山の麓だった。一見おおらかだが、活火山だと主張するように風にのって硫黄の匂いが流れてくる。

この地域に広がる道は、交通量の少ない幅の広い区間もあれば、小腸のように細くうねった区間もある。場所によっては洪水の被害が残っていて、沿岸部では海水が蒸発した塩で滑りやすいところもある。多彩なシャシー能力を確認するのに不足はない。

まず、GTモードで発進する。若干弾む印象ながら、MC20 チェロは靭やかに路面を処理する。つぎはぎの多い都市部でも、少し入り組んだ海岸沿いでも、ルーフとサイドウインドウを開いてクルージングするのにピッタリな乗り心地だ。

スポーツ・モードでは、姿勢制御が1段引き締まる。それでも、硬さは殆どの一般道で許容範囲。8速ATは低めのギアを選ぶようになり、トルキーなV6ツインターボの実力を発揮しやすくなる。自分でシフトパドルを弾いた方が、より好ましいが。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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