意外なほど機械の味 マクラーレン・アルトゥーラに、現代のスーパーカーの形を見た!

公開 : 2023.01.01 11:25

“戸惑いなし”で走れるワケ

アクセルペダルストロークの単純割りなら半分踏み込めば36kg-m、つまりNA 3.5L級全開のトルクが得られる計算。

と、数値を並べると神経質なペダルコントロールを想像させるが、予想以上にコントロールしやすい。

ステアリングから手を離さずモード変更できるスイッチ。左手の指先が触れるところにハンドリング(H)、右手の先にパワートレイン(P)のコントローラーを配置した。
ステアリングから手を離さずモード変更できるスイッチ。左手の指先が触れるところにハンドリング(H)、右手の先にパワートレイン(P)のコントローラーを配置した。    神村聖

ひとつはストロークに対する発生トルク。深くなるほどに大きくなるような感覚。

もうひとつは踏み込み初期反応で、唐突な反応を抑えて予見性の高いトルク立ち上げを示す。

700ps級のスーパーカーを慣熟なしで乗せられて戸惑うこともなく走れたのは、そういったドライバーの感性に合わせて造り込まれた“いい対話感”がパワーと速度の圧迫を大幅に減らしてくれていた。

この試乗の凄さ。「あくまで自己責任ですが、ヘルメットの着用は任意です」とのこと。

一応、ヘルメットやレーシングスーツなどを持ち込んでいたのだが、お言葉に甘えてノーヘル/普段着で試乗させてもらった。

曰く、先導車付きでストレートも約200km/h制限。1コーナーやダンロップコーナーのブレーキングは回生距離を大きく取ることもあって安全マージンは感覚的には倍くらい。

一般的にはかなりの高速とはいえ、アルトゥーラのポテンシャルからすればツーリングである。

連続するコーナー どう攻略?

とはいえブレーキングを詰めていないだけで、100Rやヘアピンから300Rの高速コーナーは限界に近い領域まで至ってしまう。

MRの高速コーナーでのオーバーステアは致命傷になりかねない。きっちりと弱アンダーステアを維持する必要があり、そのとおりアルトゥーラは深めの舵角を維持。

ブルーノ・セナも同日に富士をテスト。アルトゥーラの良さが一番出るのは、テクニカルなコーナーが連続するセクションと語った。理由は、「新しいパワートレインはバランスが取りやすいから」。
ブルーノ・セナも同日に富士をテスト。アルトゥーラの良さが一番出るのは、テクニカルなコーナーが連続するセクションと語った。理由は、「新しいパワートレインはバランスが取りやすいから」。    神村聖

限界近ければ追い舵の回頭も鈍り、加速させればグリップバランスを乱さずラインを孕ませる。

という具合に高速コーナーに合わせればタイトコーナーの捌きが難しくなるものだが、前輪の逃げが大きくなるものの、減速でのターンインもトラクションを活かした立ち上がりも操舵主導で綺麗にラインに乗っていく。

高速コーナーもタイトコーナーもいい感じで操れてる、と思わせてくれるのが心憎いところだ。

操る感覚とは何? 鍵は手応え

ドリフト走行時には車体スリップアングルを安定させる制御機能が盛り込まれているそうだ。「そうだ」としか言えないのは試していないためだが、それを考えても相当高度な運転アシストあるいは運動制御が備わっていると考えるべき。

しかし、クルマに乗せられている印象は非常に少ない。

日本仕様は、ハンドル位置を左・右どちらも選べる。ACC、レーン・デパーチャー・ウォーニング、ハイビームアシストといった運転支援システムをマクラーレンとして初搭載。
日本仕様は、ハンドル位置を左・右どちらも選べる。ACC、レーン・デパーチャー・ウォーニング、ハイビームアシストといった運転支援システムをマクラーレンとして初搭載。    神村聖

感じるのは自身で「機械」を操る「生っぽさ」。

パワステに油圧式を採用するなど、操る感触はアルトゥーラのこだわりのひとつなのだが、電子制御による完璧な管理をドライバーに意識させないことに感心させられた。

タイトターンと高速コーナーの特性からして運動性の理想を求めているのは明白なのだが、磨き込み過ぎずに微妙に雑味とか揺らぎを感じさせるのが妙味。

急操舵の揺れ返しなど運転ミスも含めてドライバーに返してくれる。しかも走行に影響が出ない微小な量でだ。それが機械を直に操っている手応えになる。

700ps級をストレスなく操れるのも「電子制御ありき」は間違いないのだが、生の機械の味わいも上手に共存。ハイブリッドの使い方も同様であり、現代のスポーツカーの在り方を実感させられた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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