セダンっていいね メルセデス・ベンツAクラス/Bクラスより、「A 200 dセダン」が光る時

公開 : 2023.05.04 19:15

Aクラス・セダンは、ベンツのコンパクト・モデルのなかでも「メルセデスらしさ」を詰め込んだ1台。セダンが選ばれにくい時代の改良新型ディーゼル車をテストします。

デザインもいいコンパクト・セダン

積載の多様性はハッチバック(HB)車に及ばないが、独立したトランクルームを持つセダンは、4名乗車の快適性と荷室容量の両立に優れた車体形式でもある。

また、車体後半分の骨格部の構造は、HBよりも剛性・遮音性などで有利。広さとは質の異なる寛ぎを求めた車体形式と言ってもいい。

改良新型メルセデス・ベンツA 200 dセダン(570万円/デジタルホワイト)。AMGラインパッケージ装着の試乗車は、全長4565×全幅1800×全高1430mmというサイズ。
改良新型メルセデス・ベンツA 200 dセダン(570万円/デジタルホワイト)。AMGラインパッケージ装着の試乗車は、全長4565×全幅1800×全高1430mmというサイズ。    宮澤佳久

Aクラス・セダン」は、その名のとおりにAクラスHBに対してリアオーバーハングを拡大してセダンとしたモデルである。

車体サイズは国産車ではシビックマツダ3と同等となるが、トランク部の存在感を示すリアデッキ周りのデザインなど「3BOX」の据わりのいい佇まいが印象的だ。

上級セダンに比べればAクラスらしくカジュアルな雰囲気も濃いが、最近のセダンで流行りのファストバック風スタイルに流されていない。

そちらはAクラスの4ドアクーペ版となる「CLAクラス」が受け持つので、Aクラス・セダンは“セダンの本質”で纏めたと理解していいだろう。

改良新型ディーゼル仕様に注目

MCの内容はAクラスHB/Bクラスと共通。車載ITシステムのMBUXや安全&運転支援システムのアップデートなどが施され、ナビにはモニターに映し出された前方風景で進路指示も行えるARナビも採用された。

AMGモデルを除いたバリエーションは、ガソリンの1.3Lターボとディーゼルの2Lターボの2グレードで、ともにFWDのみの設定。試乗モデルはディーゼルの「A 200 dセダン」である。

改良新型メルセデス・ベンツA 200 dセダンの前席(内装色:ブラック/レザーARTICO/MICROCUT)
改良新型メルセデス・ベンツA 200 dセダンの前席(内装色:ブラック/レザーARTICO/MICROCUT)    宮澤佳久

A 200 d(HB)対比の車重増はわずか10kgとはいえ、最高出力はNA仕様ガソリン車なら1.8L級相応の150psであり、パワーウェイトレシオは10kg/psでしかない。

プレミアムを求めるメルセデス車、あるいは、走りのよさや快適性を求めるセダンとして選ぶには物足りなさを覚える数値だが、心配は無用である。

最高出力に比べて圧倒的な大トルクのディーゼル。最大トルクは、ガソリン車なら3.5L級に匹敵するのだ。

レブリミットはメーター読みで4500rpm強。最近のディーゼルでは標準的であり、8速DCTの変速制御の巧みさもあり、狭い回転レンジを使い小気味よいドライブフィールを示した。

巡航回転数は1500rpm前後。加速では大トルクで強引に巡航ギアを維持する訳でもなく、比較的早いタイミングでダウンシフトを行う。

加速・ハンドリングを分析 

加速の立ち上がりから踏み込み量相応のトルクに至るまでの繋がりは滑らかであり、力強さと伸びやかさを上手く両立している。

大トルクの低中回転重視でも程よく「回す心地よさ」が織り込まれていた。

2Lディーゼルのスペックは、最高出力150ps/3400-4400rpm、最大トルク32.6kg-m/1400-3200rpm。
2Lディーゼルのスペックは、最高出力150ps/3400-4400rpm、最大トルク32.6kg-m/1400-3200rpm。    宮澤佳久

俊足とかスポーティといった付加価値を求めるモデルではなく、ゆったりとして実用性の高いパワーフィールであり、市街地での扱いやすさや高速・山岳路での余裕が特徴。“落ち着き”と“ゆとり”は、セダンのキャラクターにも似合っている。

ハンドリングは、軽快感・切れ味を抑え気味にして操舵に穏やかに追従するタイプ。FWD車としてはロール軸の前下がりは少ない。要するに、タイトターンでも前のめり姿勢になりにくい。

だからといって、サスを硬めて姿勢変化を抑え込んだ印象もない。

同形式のサスを採用するモデルでもしなやかなストローク使いで、なおかつ車軸規制がしっかりしている。回頭とロール、車両全体の旋回力の発生が同時進行していくような感じ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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