個性と調和するスパイダー マセラティMC20 チェロへ試乗 洗練され快適で美しい

公開 : 2023.05.27 08:25

5000rpmを超えると聴覚的な刺激が高まる

低速域で走っている時は、さほど聴き応えがあるとはいえない。ターボチャージャーの回転音やバルブギアのタペット音、こもったガソリンの燃焼音などが主体になる。

加えて、8速デュアルクラッチATをオートマティック・モードのままにしておくと、積極的にシフトアップされるため回転数が低く保たれる。イタリアンなドラマチックさが、強いとはいえない。

マセラティMC20 チェロ(英国仕様)
マセラティMC20 チェロ(英国仕様)

マセラティのスーパーカーとして、常用域でも鑑賞したくなるサウンドを放つべきだと思う。しかし5000rpmを超えると、退屈なノイズの集合体が心地良い音色へ変化していく。聴覚的な刺激が高まり満たされる。

MC20 チェロのドライビング体験は、甘美なまでの滑らかさと、操縦系の軽やかさが特長。630psを発揮するスーパーカーとしては異例といえるが、そのぶん英国の傷んだ一般道との相性に優れる。

スポーティなドライブモードを選んでも、乗り心地に我慢をする必要はない。段差を超えてもソリッド感は失われず、常にボディは落ち着いている。

現実的なスピードで、フォールディング・ハードトップを開いたドライブは爽快。走り去る景色との一体感は、クーペでは叶えることが不可能だ。葉の色や風の匂い、鳥の鳴き声などと一緒に走れる。ドライビング体験が、より豊かさを増す。

洗練され快適で、美しく、日常との親和性が高い

もう少し、反応は鋭く重くてもいいだろう。ステアリングホイールとブレーキペダルには過剰気味のアシスト感が伴い、操作した実感が乏しい。8速ATは、コルサ(レース)・モードを選択しても変速が鋭敏とまでは感じられない。

ライバルとなるフェラーリ296 GTBマクラーレンアルトゥーラなどのように、クルマとの一体感をより強いものとするには、さらに確かな手応えが欲しいところ。ドライバーへ優しすぎるように思う。

マセラティMC20 チェロ(英国仕様)
マセラティMC20 チェロ(英国仕様)

それでも、手のひらや足の裏へ伝わるフィードバックは豊かで、反応は線形的。高めの速度域でも、直感的に操縦できる。

MC20 チェロの動力性能に不満はない。実際の身のこなしや運転のしやすさにも優れている。シャシーとより濃く明瞭なコミュニケーションを取ることができれば、なお一層素晴らしいというだけにすぎない。

極めて洗練され、快適で、美しく、日常との親和性が高いミドシップ・スーパーカーのマセラティMC20 チェロ。オープントップというスタイルが、そのキャラクターへ見事に調和している。

マセラティMC20 チェロ(英国仕様)のスペック

英国価格:30万5795ポンド(約4923万円/試乗車)
全長:4669mm
全幅:1965mm
全高:1224mm
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:3.0秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:265g/km
乾燥重量:1540kg
パワートレイン:V型6気筒3000ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:74.2kg-m/3000rpm
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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