アルピーヌA110R試乗 「思てたんとちがう」 底なしエンタメに感激

公開 : 2023.08.01 20:15

アルピーヌA110Rに試乗! 仏流の「見せ筋」と底なしのシャシー・エンターテイメントを体感しました。

「R」はレーシングにあらず

フランスはディエップ謹製の「ベルリネット」ことアルピーヌA110に、「ピュア」と「GT」、「S」に続いて、第4のモデルとなる「A110R」がカタログ・ラインナップに加わったのは昨年のこと。7月中旬、そのA110Rの試乗会が、箱根でおこなわれた。

昨年の7台に続いて、今年の日本市場への割り当て、「通常のR」14台の枠も瞬間蒸発したそうだが、Rがベースとなった限定版「A110Rル・マン」は、日本に左ハンドルと右ハンドルが3台づつ、計6台が入る。うち後者、3台の右ハンドル仕様が、われわれの試乗した時点ではまだオーダー可能だった。

アルピーヌA110R
アルピーヌA110R

それにつけてもA110Rは1550万円、限定ル・マンに至っては2000万円であるのに対し、エンジンの出力自体は340Nm・300ps仕様、つまり「GT」や「S」とまったく変わっていない。つまりシャシーが違うだけで従来モデルと600万円近い差があるわけだ。

先ほどA110Rは「第4のモデル」と述べたが、Rに与えられたシャシー自体は、ピュアとGTのシャシー・アルピーヌ、S用のシャシー・スポールに続く、第3のシャシーで「シャシー・ラディカル」と呼ばれる。

ちなみにRの開発にあたって走行テストの3分の1は公道、3分の2はサーキットに費やされたそうだが、A110Rの「R」は敢えて「レーシング」ではなく「ラディカル」に由来するのだと、アルピーヌは強調する。

どういうことか。A110でサーキット専用といえば、GT4やワンメイクレース仕様など、シグナテックが開発した前後サブフレームごと、車検や公道使用を前提としない体育会モデルのこと。

だからA110Rはメーカー純正チューンドというか、アスリート側のロジックでストリート・リーガルとして磨き込み、突き詰めた仕様なのだ。

だからこそ、渋谷の道玄坂っぽい居酒屋街を練り歩くベルリネットという、ジャポニズムなキービジュアルに納得がいくはずだ。

「大人のカーボン祭り」

外観パッと見で分かるA110Rのチューンドめいたヤバさ、しかしレーシングな知見と技術が活きている部分は、「大人のカーボン祭り」とでも呼ぶべき装着パーツの数々と、その洗練ぶりだ。

カーボンに置き換えられた後方視界のないリアフードやボンネットフードの裏には、FIA認証の一体成型カーボンパーツで多々実績のあるCARLコンポジット社の刻印プレートが光る。

スワンネック・ステーの派手なリアウイングや、リアに向かってエクステンドされたリアディフューザー、さらにデュケーヌ社製の前後ホイール、車内ではカーボンシェルのバケットシート左右まで、すべてカーボン。
スワンネック・ステーの派手なリアウイングや、リアに向かってエクステンドされたリアディフューザー、さらにデュケーヌ社製の前後ホイール、車内ではカーボンシェルのバケットシート左右まで、すべてカーボン。

スワンネック・ステーの派手なリアウイングや、同じくリアに向かってエクステンドされたリアディフューザー、さらにデュケーヌ社製の前後ホイール、車内ではカーボンシェルのバケットシート左右まで、すべてカーボンだ。

デュケーヌ社はエアバスの航空機用パーツの他、自転車のロードレース用ホイールであるマヴィックも手がけている。それこそカーボンの複雑加工のスペシャリストを総動員しつつ、日本のチューニングカー文化にあるようなアドオン互換を、フレンチ目線で遊んでいるような気がしてならない。

喩えていえば、まるで大衆居酒屋に有名アスリートがランニング/短パンでフラッと入って来て、周囲の視線が二頭筋やヒラメ筋に集まる、そんなストリートっぽいビジュアル的オーラが、A110Rの過剰なまでのカーボン・ルックにはある。

結果的にA110Rは、A110Sエアロパッケージ比で-30kg(日本の認証値)となる1080kgを実現しているが、ただ数値上で軽量化を追求したというより、効くところを軽くして相対的に物理的マスを低重心化しつつ、空力をさらに見直したところに意味がある。

空力セッティングとしては、「ピュア」とドラッグは不変ながら、最高速付近のリア側ダウンフォースは+110kg、フロント側は+30kg。じつはA110Sエアロパッケージは、リア側+81kg、フロント側+60kgなので、A110Rの方がリアのスタビリティ重視で、前車軸側のダウンフォースは抜かれている。

つまり、より高い速度域での荷重移動を前提としつつ、さらにアクセルを踏み込ませて前へトラクションをかけていく設定といえるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。
  • 撮影

    小川和美

    Kazuyoshi Ogawa

    クルマ好きの父親のDNAをしっかり受け継ぎ、トミカ/ミニ四駆/プラモデルと男の子の好きなモノにどっぷり浸かった幼少期を過ごす。成人後、往年の自動車写真家の作品に感銘を受け、フォトグラファーのキャリアをスタート。個人のSNSで発信していたアートワークがAUTOCAR編集部との出会いとなり、その2日後には自動車メディア初仕事となった。

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