マセラティ・グレカーレの謎 なぜか乗ったそばから“馴染める”SUV 「モデナ」「トロフェオ」で探る

公開 : 2023.08.17 21:32

最上位は530psのネットゥーノ

そしてマセラティのトップパフォーマンスグレードに度々用いられてきた名前が「トロフェオ」。

その冠をいただくグレカーレのボンネットに収まるのは、MC20のために開発され、グラントゥーリズモにも搭載される3L 直噴V6ツインターボのネットゥーノだ。

グレカーレ・トロフェオ(内装色:ネロ/ロッソ)
グレカーレ・トロフェオ(内装色:ネロ/ロッソ)    宮澤佳久

扱いやすさも気配られてパワーはデチューンされるものの、530psのアウトプットはポルシェ・マカンターボやBMW X4 Mをも上回るなどライバルをものともしない。

0-100km/h加速は3.8秒、最高速は285km/hというから、その動力性能はスーパースポーツの域だ。

「モデナ」に見たマセラティらしさ

試乗した「モデナ」はオプションの21インチタイヤを装着、結果的にトロフェオと同寸のマッシブな足元となっていたが、それでも驚かされたのは路面アタリの穏やかさだ。

小さなギャップや舗装の荒れなどはもちろんだが、こちらが身構えるような大きめの凹凸でも、入力の角をくるっと丸めて乗員に不快な突き上げなどを伝えない。

グレカーレ・モデナ(ブルー・インテンソ)
グレカーレ・モデナ(ブルー・インテンソ)    宮澤佳久

最初はオプションのエアサスがついているのかと勘違いしたほどだったが、後に乗ったエアサス標準装備のトロフェオより、結局のところコイルのモデナの方が乗り心地的には整っていた。

実は昨年、上陸間もないGTに乗った時は乗り心地の硬さが気になっていたが、電子制御ダンパーの採用に加えて年次的に生産がこなれてきたことなども要因として考えられるだろうか。いずれにせよ、スポーツ系SUVとして、これなら平時でも抜群に快適だと太鼓判を捺せる。

モデナのコーナリングは軽快な回頭性や旋回姿勢の饒舌さが印象的だ。

直4マイルドハイブリッドのパワーはGTと大差があるわけではないが充分以上という感じで、低回転域では48Vモーターのアシストが予想以上に活発に働いていることも伝わってくる。

シャシーはロールやピッチをきっちり抑え込むようなセットアップではなく、どちらかといえば入力に対するフィードバックを姿勢でリアルに伝えながらドライバーに運転実感を伝えるタイプだ。これは先代グラントゥーリズモやレヴァンテといったマセラティのモデルに相通じるキャラクターだと思う。

「トロフェオ」 四駆の躾に注目

このシャシーの印象はエアサスの「トロフェオ」でも相通じるところ……だが、こちらはパワーが段違いの530psだ。

全開加速はさすがに強烈で、個性的な中高音を響かせつつ、爆発的な蹴り出しをみせる。

グレカーレ・トロフェオ(ビアンコ・アストロ)
グレカーレ・トロフェオ(ビアンコ・アストロ)    宮澤佳久

が、前後駆動状況を示すインジケーターをみてみると、最大50%は配分されるという前輪側への変動量や時間は思いのほか少ない。

モデナで気持ちよくコーナーを回るくらいの運転では微動だにせず、トロフェオのパワーを路面にグイグイ押し込むつもりでアクセルを操作して、ようやく前輪側にトルクが配分されるような印象だ。

四駆ながらも基本はあくまでFRにあって、設定したドライブモードや路面状況、旋回負荷などに応じて最小限の駆動変化を加える、言い換えれば努めてFR的な挙動ゆえドライバーと車両との意思疎通がナチュラルに交わされると。

初めて乗った時から“車体が小さく感じられる”、グレカーレの肌馴染みの良さはこういったところに秘密があるのではないだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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