「アウトバーンの巡航」は160km/hがベスト アルピナD3 S ツーリング 長期テスト(2) 疲れが癒える快適さ

公開 : 2023.12.02 09:45

直列6気筒ディーゼルを搭載した高速ワゴンのD3 S 独立時代最後となる現行型 誉れ高いアルピナの実力を長期テストで検証

積算4188km 深夜の疲れが癒されるほど快適

出張を終え、空港の駐車場へ辿り着いたのは午前1時15分。自宅まで2時間近くの道のりが待っている状態で、高速道路を利用できるなら、アルピナD3 S ツーリングほど乗り込むのに望ましいクルマはないように思う。

ガソリンタンクには、約400km走れるガソリンが残っている。エンジンのレスポンスは、目が覚めるほど鋭い。シートへ身を委ねれば、疲れが癒されるほど快適だ。ところが、あいにく高速道路は通行止めになっていた。

アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)
アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)

積算5480km 惚れ惚れする中間加速のたくましさ

ベルギーとドイツの国境に存在した検問所跡を通過すると、道路標識のデザインが変わった。白地に黒のボーダーが斜めに描かれた丸い標識は、最高速度が変わったことを示す。いや、制限がないことを示している。

生まれ故郷の道ほど、アルピナの魅力を体験できる場所はないだろう。「ミュンヘンからフランクフルトへの移動で、飛行機ではなくアルピナを選ぶ人もいます」。と、同社の創業者の息子、アンドレアス・ボーフェンジーペン氏から話を聞いたことがある。

アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)
アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)

D3 S ツーリングへ失礼がないよう、右足へ力を込める。スルスルとスピードが上昇していく。近年のディーゼルエンジン人気はすっかり下火だが、やはり中間加速のたくましさには惚れ惚れする。0-100km/h加速4.6秒という数字以上に鋭く感じる。

開発された場所でクルマの特性が決まる

あっという間に160km/hを超えた。ひと呼吸をおいて、再びスピードメーターへ目を配ると240km/hを超えていた。可能な限り視界の遠くへ集中する。遅い車両が目に入ってきたら、すぐに右足を緩める。追い越したら、再び加速する。

D3 S ツーリングの最高速度は、273km/hだという。今回はそこまで試さなかったが、250km/hを超えているのは何度か目撃した。

アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)
アルピナD3 S ツーリング(英国仕様)

ブレーキディスクは、カーボンセラミックではなくスチール製だが、繰り返し減速してもフィーリングは変わらない。これだけスピードが出ていれば、冷却に充分な気流がある。ペダルへ力を込めれば、制動力も頼もしく強くなる。

ステアリングの安定感も抜群。ピタリと真っ直ぐ突き進む。

アウトバーンの一部の区間では速度制限がないことが、ドイツのパワフルなクルマが良くなる理由の1つだろう。クルマが開発された場所で、特性が決まることには納得できる。舗装が悪くカーブの多い英国では、乗り心地と操縦性に優れたクルマが生まれやすい。

クルマの設計で意図された場所を運転することは、非常に楽しい。ドイツを定期的に横断するような仕事をしているなら、D3 S ツーリングを超える移動手段は限られるはず。

電車は運行時間が決まっていて、駅でしか降りられない。飛行機も同様だが、1時間のフライトでも、搭乗の前後に1時間ほどの余裕を見る必要がある。そもそも、クルマの運転自体が楽しい。歳を重ねても。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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