稀代な3台のロータリー マツダ・コスモ、NSU Ro80、シトロエン・ビロトール 前編

公開 : 2019.10.19 16:50  更新 : 2021.03.05 21:43

NSU Ro80とシトロエンGSビロトール、マツダ・コスモは、ロータリーエンジンを搭載したクルマという点で共通しています。しかも3台は1人の非凡なオーナーによって大切に乗られています。惹きつける魅力とは何なのでしょうか。

ほぼ新車状態のシトロエンGSビロトール

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

シトロエンは、NSU社との共同投資でコモーター社を設立し、ドイツのお隣に位置する小国、ルクセンブルクに小さなロータリーエンジン工場を準備。初めに50psのシングルローターエンジンをアミ・クーペに搭載し、267台を製造した。M35と呼ばれ、1969年から1972年まで製造。評価目的で特別な顧客へ貸与されている。

ハイドロ・ニューマチック・サスペンションの補機類の専有面積が大きくエンジンは横置きとなっているが、スペアタイヤに隠れて殆ど見えない。見た目もRo80のユニットとは大きく異なる。内部構造は共通だが、ブレーキやサスペンション動作用のポンプなどによるエネルギー損失が大きく、かなり非力に感じられた。

シトロエンGSビロトール
シトロエンGSビロトール

シトロエンが3年落ちのGSを初めてのロータリーエンジンのベース車両に選んだことは不思議に思えるが、3ローター・エンジン版のCXプロトタイプも控えていた。恐らく大型車の方が、燃費が悪くてもパワフルで先進的なエンジンに対して、オープンな考えを持っていたのだろう。

フェンダーが大きく膨らみホイール・ボルトが5本なこと以外、アピアランスはGSと似ているが、中身は異なる。サスペンションやシャシーは、CXなどからの流用品と専用の開発部品が組み合わされていた。アウトボード化されたフロント・ディスクブレーキの取り付け位置は、設計上の過ちとしか思えない。

走行距離はわずか5300kmと、フィリップ・ブレイクが所有するGSビロトールはほぼ新車状態。1974年にシトロエンのディーラーは、本社へ売れ残ったビロトールの登録書類とシャシーナンバーのプレートを送り返した。おかげでシトロエン社から巨額の補償を受け取ることができた。加えてクルマは手元に残し、展示会に出品していたという。

通常のGSには備わらない活発さ

2人目のオーナーが英国へビロトールを持ち込むものの故障。シトロエンの専門店でもロータリーエンジンは手に負えず、ブレイクが呼ばれ、30分もかからずに復活させたという。それ以来ブレイクはビロトールへ恋に落ち、2018年4月に所有者となった。

大きめのタイヤに着座位置も高く、不思議と通常のGSよりもアグレッシブに感じられる見た目。一見ハッチバックのようだが、ラゲッジスペースは別になっている。多くのコスモ110Sが白色なように、多くのビロトールはチョコレート・ブラウンかライト・ゴールド色。

シトロエンGSビロトール
シトロエンGSビロトール

空冷の水平対向エンジンを搭載した通常のGSよりも価格は70%も高かった。それを正当化するために、車内はカーペット敷きで、ヘッドレスト一体の立派なフロントシートを与えた。センターコンソールにはエンジンオイル計が付いている。ロータリーエンジンは消費量が多いためだ。

NSU Ro80と同様に、低回転域でのトルク不足とオーバーランを防ぐために、トランスミッションは3速のAT「Cマティック」が選ばれた。全体的に滑らかだがATは変速時に癖があり、急いで走るのは良くない。2速で128km/hまで出るから、街なかで運転する限りは2速でこと足りた。

ドライブフィールはスムーズで活気があり、回転数が上がる程にエンジンの調子が良くなっていく。通常のGSにはこのイキイキした感じはない。アンチロールバーと小さく軽量なエンジンのおかげで、ボディロールやアンダーステアも最小限。タイヤのスキール音も出にくい。

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