伝説的な物語になった「黒歴史」 ロータス・カールトン(2) 盗難被害から水没状態で発見

公開 : 2024.07.28 17:46

英国オペルのヴォグゾールとロータスが手を組んだ、高性能カールトン 世界最速を誇ったスーパーサルーン 窃盗団の逃走車両になった黒歴史 警察を悩ませた「40 RA」を英編集部がご紹介

窃盗団追跡の最終手段はヘリコプター

グレートブリテン島中部、ウェスト・ミッドランズ州のレディッチやブロムスグローブという町では、同じ商店が2度も窃盗団に襲撃された。逃走に使われたロータス・カールトンは、望まれない形で注目を集めた。

「このクルマは、遠くの場所に隠されていたのでしょう。特定の管轄内で、被害が繰り返されました。そこで真剣に向き合うべく、3つの警察署で連携して解決に当たることになりました」。当時警察官だった、ブライアン・オズボーン氏が話す。

インペリアル・グリーンのロータス・カールトンと、パトカー仕様のローバーSD1 3500
インペリアル・グリーンのロータス・カールトンと、パトカー仕様のローバーSD1 3500

11回目の襲撃は、手荒な内容だった。1994年1月6日、警察署の向かいにある新聞販売店が狙われた。ロータス・カールトンは、バックで店に突っ込んできたという。

駆けつけた警官は、警棒で応戦。1枚のサイドウインドウを叩き割るものの、2人組の犯人は逃げ去った。盗んだタバコを、路上に撒き散らしながら。

地元の新聞は、警察が犯人のクルマへ追いつけないことを問題視した。わざとスピードを落とし、パトカーを挑発。巨大なトルクで、からかうように逃亡した様子も報じられた。

しかし、高速で走る逃走車の追跡には危険がつきまとう。窃盗団を死なす可能性だけでなく、警官の命も安全とはいえなかった。

「ヘリコプターが最終手段になりました。犯人がクルマを放棄したのは、その効果でしょう」。新しく導入された航空機による支援が、大きな抑止力をもたらした。

40 RAのナンバープレートだけが戻ってきた

1週間ほど平穏な日が続いたある時、ウェスト・ミッドランズ州に水没車両があるという通報が入る。運河を塞ぎ、船の通行を妨害していた。

水中から回収されたロータス・カールトンは、ステレオデッキがなくなっていたが、40 RAのナンバーは付いたままだった。バーミンガム警察の科学捜査研究所へ運ばれると、指紋採取用の紫外線パウダーが全体に吹きかけられた。

ロータス・カールトン(1989~1992年/英国仕様)
ロータス・カールトン(1989~1992年/英国仕様)

6週間に11回も続いた、連続窃盗事件は幕切れとなった。「彼らはハイパワーなクルマを再び手に入れて、繰り返すだろうと考えていました。しかし、再発はありませんでした」

「犯人は、その後も捕まっていないようです。スリルを楽しみながら、戦利品を持ち帰ったのでしょう。われわれは、犯人へ接近できませんでした」。ブライアンが振り返る。

捜査を終えたカールトンは、無惨な形のままスクラップ置き場へ。40 RAのナンバープレートだけが戻ってきたリチャードへ、保険会社は別のクルマを手配した。だが、それへ満足することはなかった。

それから30年近くが過ぎた2022年、もう一度購入できるチャンスが彼へ巡ってきた。「長い間、探していたんです。インターネットで発見したんですが、グレートブリテン島の北にある、ルイス島の住人が売り手でした」

「かなりの修理が必要で、新車のように仕上げるのは難しいだろうと考えていました」。とリチャードは説明するが、このモデルを専門に扱うアガメムノン社によるレストアで、美しく仕上げられた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ロータス・カールトンの前後関係

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